第96話

 不敵に笑いながら現れたヒルデを見て、カズヒコが吠える。


『ヒルデぇぇぇぇぇっ!!』


 怒声をあげながら影の腕を伸ばしてくるが、その全てを飛行する光の剣によって細切れにされた。


「ところで、アレはなんだ? どうして私の名を知っている?」

「あれがカズヒコだよ」


 アシュレイの言葉を聞いた瞬間、ヒルデが哄笑をあげた。


「醜い醜いと思っていたが、よもや人の身を捨てるとはな! あははははは! 傑作だぞ、転生者!」

『ぶっ殺してやるぞ、貴様ぁぁぁぁぁっ!!』


 ヒルデが眼光鋭くカズヒコを睨んだ。


「それはこちらの台詞だ、色ボケ豚が。喋るな、存在そのものから悪臭がする」


 熱光奏射ライトニングの閃光を光の剣が折り重なって鏡のように横へとズラす。その隙をついて、剣が飛来し、カズヒコの体を貫いた。


『貴様もテオも、どうして俺の思いどおりにならねぇえんだぁぁあっ!!』


 絶叫しながら叫ぶ。瞬間、アシュレイはヒルデに抱えられた。

 大爆発。


 ヒルデに抱えて逃げられなければ、爆発に巻き込まれて死んでいただろう。


「ヒルデ、どうして、あいつに恨まれてるの?」

「あの転生者様は生意気なことに私を口説いてきたからな。乗った振りをしてベッドの上でナイフを突き立ててやっただけだ。あいつの小さな股間ドラゴン様にな。あの時は傑作だったぞ」


 笑いながら言うところが西部騎士らしいと思った。

 土煙が舞う中、光の剣だけが舞っていた。カズヒコの怒声が響いてくる。


「まあ、さすがに殺し切ることはできなかった。結局、逃げたんだが、今、思い出しても、涙目で股間をさらしながら戦うアイツは愚かで醜くて、滑稽だったよ」


『ヒルデぇぇぇぇっ!!』


 叫びながら土煙の中からカズヒコが現れる。カズヒコの眼前に赤い魔術陣が並んだ。得意の熱光奏射ライトニングかと思ったが、どうやら様子が違うようだ。


『なんだ、これは――』


 瞬間、カズヒコの体が沸騰するようにさく裂した。


『ぎゃああああああああああ』


 今までどれだけ斬ろうと焼こうと反応しなかったカズヒコが絶叫している。テオドールか? と思って視線を向ければ、テオドールも目を見開きながら槍を振るってカズヒコを見ていた。


「リリアの神機オラクルなら効くようだな……」


 異跡メガリスで見つけた神機オラクル――呪殺兵器!?

 おそらく、リリアがどこかに隠れながらカズヒコを神機オラクルで狙撃しているのだろう。あの巨大な兵器を持ちながら、近接戦闘は確かに得策ではない。


「テオ!! 呪殺兵器だ!! 呪術とかそういう攻撃は効果があるんだよ!!」


 叫んだ瞬間、テオドールがサムズアップして笑う。


「ヒルデ!! リリア!! 時間を稼いでくれ!!」


 テオドールの叫びにヒルデは舌打ちを鳴らした。


「なんだ、まだ生きていたのか……死んでいればよかったものを……」


 ブツクサ言いながらもヒルデは新たに光の剣を発生させ、カズヒコへと投げ撃った。


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