第94話
光を追って熱波が皮膚に当たる。ブワッと勢いよく汗が噴き出す端から、蒸発して消える。
周囲に生い茂っていた木々は閃光によって溶かすように薙ぎ払われ、消し炭になっていた。その中を影の怪物カズヒコが、鋭い腕を伸ばし、テオドールを襲う。
テオドールは必死に躱しながら考えていた。
(さて、あのバケモノを倒す方法として考えられるのは、いくつかあるが……)
一番手っ取り早いのは封印だ。
肉体を破壊できないならば、動けないように封じてしまえばいい。それは
物理的に封じてしまい、その自由を奪ってしまえば、カズヒコは置物と化す。
ヴァーツヤーヤナが言うには、神に愛される者の特徴は『見ていて面白い』者だそうだ。神は全知全能で退屈しているため、面白いことをやらかす人間を寵愛するらしい。
ともすれば、ただの置物と化したカズヒコを神が愛するとは思えない。その場合、カズヒコは使徒ではなくなり、その存在を消滅させるのではなかろうか? と思ったのだ。
あくまで推論でしかないが、確証は無くとも縋りたい。
問題はデタラメな熱量を持つ
(試す価値はあるが……)
あの極大の
考えうるありとあらゆる魔術体系の
(まあ、俺はショートカットできるけどさ……)
テオドールは文字処理ではなく画像処理で術式を組み立てるので、ほぼ一瞬で魔術を作ることができる。ただし、それは機知の魔術においてだ。
(ま、やるしかないか……とはいえ、術式構築するには手が足りん)
思考を分割することで戦いながら魔術式の構築は可能だが、現状、カズヒコ相手に戦闘面で手を抜くなど不可能だ。
今もギリギリのやり取りの中、どうにか攻撃をしのいでいると言っていい。
(気は乗らんが、やるしかないか……)
自分一人でできなければ他人を頼るしかない。
テオドールはカズヒコの一瞬の隙を突き、鞘に納めた神剣をアシュレイへと投げた。驚いた顔のアシュレイが剣を受け取る。
「アシュレイ! 抜け!!」
言われてすぐ神剣を引き抜く。
『それは俺の剣だぁぁぁっ!!』
カズヒコが背中から影の棘をアシュレイへと伸ばす。今までのアシュレイなら反応すらできずに串刺しになっていただろう。だが、影の棘をアシュレイは斬り飛ばしていた。それどころか、更に踏み込み、背中に斬りつける。
自分の動きに驚いた顔をするアシュレイだが、そこにカズヒコは追撃を加える。音もなく後ろへとはね飛び、攻撃を躱した。
「なんだ、これ……」
「アシュレイ! その剣を持ってれば、天剣レベルの腕になる! 絶対に放すな!」
「ああ!!」
剣を構えながらアシュレイはうなずいた。
『俺の剣だと言ってるだろうがぁぁっ!!』
神剣譲渡のおかげで、カズヒコの注意がアシュレイにも向かう。その分、こちらへの攻撃の激しさが軽減された。
(これで、二割くらいのリソースを新魔術の構築に使えるか……)
ゼロよりマシだが、二割のリソースでは数日かかる。数日も戦っていられる自信が無い。
(使えるモノは全部使っていくしかないか……)
テオドールは指輪に魔力を注ぎ、通信のアーティファクトを起動。リーズレットに念話を飛ばす。
『リーズ、聞こえるか、リーズ!』
『テオ、どうしたの!? なにか山のほうで光ったり、飛んできたけど!』
『すまん。失敗した。カズヒコの首を刎ね飛ばしたんだが、生き返った』
『え? どういうこと?』
『俺にもよくわからんが、おそらく神の介入だ。ヴェーラ神柱内だし、おそらくヴェーラがカズヒコに力を貸した』
『え? 意味がわかんないんだけど?』
『まあ、早い話、カズヒコは不死身のバケモノになったってわけだ』
『どうするの!?』
『増援が欲しい。中級冒険者程度だと邪魔だ。
『わかったわ。すぐに用意する』
『そっちの戦はどうなんだ?』
『まだ続きそうだけど、何人か送るわ』
『すまん』
『謝らないでよ。だって、転生者を倒すのが私たちの目的でしょう? そのためなら、どんな犠牲だって払うわ』
『助かるよ』
『テオ、愛してるわ。無茶しないでね』
『無茶はするよ。生き残るためにね……』
言いながら通信を切る。アシュレイが押され始めているので、テオドールも攻撃を強めた。増援が来るまでしのぐしかない。増援が来たら、術式構築のリソースを増やす。五割まで増やせれば、時間はだいぶ短縮されるはずだ。
(いつか神をしばきたいな。マジで……)
神を呪いながらも、今は時間を稼ぐことしかできないテオドールだった。
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