3-5
朝食を食べ終え、洗い物をして、紫翠の分の昼食をお弁当箱に詰め、織部の分の昼食をラップをして冷蔵庫にしまってから、二人は再び向かい合って座った。
口火を切ったのは紫翠だった。
「さっきも言ったけど、織は連れて行かないよ。織の手を煩わせるほどのことじゃないの」
紫翠の瞳(め)を見れば、彼女がその意志を変えるつもりがないのがよくわかった。
とはいえ、こちらも譲れない。
「だが、主の身の安全が大事であろう?」
「主」と呼ぶのに、少し勇気がいった。
紫翠はきょとんとして、それからああそうだったと言う顔になった。
……明らかに「主」と呼ばれて反応できなかったようだった。
これは織部の責任だ。「主」と呼ぶと言ったのに、これまで一度もそう呼ばなかったのだから。
「だから、普段は危険なんてないの。年に何回かしかないのに織を連れて行かないよ」
「だが年に何回かはあるのであろう?」
「滅多にないの」
「だがないわけではない」
「そうだけど、織を連れていくほどのことじゃない」
「昨日は随分消耗していたようだ。大きな術を使ったのであろう? それほどのことであれば我を連れていくべきだ」
「それこそ年に一回あるかどうかだよ。昨日は確かにちょっと厄介だったけど、普通はそこまでじゃないの」
「だとしてもだ」
「連れて行かないよ」
お互いに譲れないため、話し合いはどこまでも平行線を辿る。
「我が傍にいない時に主に危険が及ぶのは看過できぬ」
初めて紫翠が言葉に詰まる。
「……織の立場からしたらそうかもしれないけど……」
反論する声も弱々しい。
これは好機かも知れぬ。
このままこの線で畳み掛ければ紫翠も折れるかもしれない。
だが一足先に少し考えていたようだった紫翠が口を開いた。
「……何かあった時に織が呼び出せればいい?」
「それは、どういうものだ?」
慎重に訊く。
「召喚符があるの。ちょっと待ってて。実物を見たほうが早いと思うから持ってくるね」
言うなりこちらの言葉を待つことなく部屋を出ていく。
これは待っている他なさそうだ。
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