予感的中?
竜也の撮影は滞りなく終わった。流石は現役アイドルだけあって、映えまくりです。写真を見ただけで、恋人と夕陽を見に来ている、そんな甘い物語が想像出来てしまう……僕が崖に立ったら、一人で黄昏れている様にしか見えないと思う。
「竜也、お疲れ様。撮影って大変なんだね」
撮影時間は三十分もなかったと思う。その短時間で何枚ものの写真を撮り、怒号の様な指示が飛び交う。出来上がった写真とは違い、正に修羅場でした。
(華やか芸能人の裏には、大変な苦労があるんだな)
「自然相手の撮影はタイミングを外せないからね」
ここの売りは夕陽。当然夕陽が見える時間しか撮影が出来ない。しかも、天候にも左右される訳で……そりゃ皆必死になるか。
「竜也、ありがとうな。天気にも恵まれたし、良い宣伝になりそうだよ。信吾も良いアイデアをくれたし、残り時間は少ないけどゆっくりしてくれ」
話し合いがまとまったのか徹も合流してきた。元お嬢様高校だから、バイトとかしているの僕位だろうとおもっていたんだけど……仲良くなれた二人がプロそのものでした。
(合流か……今がチャンスだ。二人なら分かる筈)
「秋吉さん達と合流する前に聞いておきたいんだけど……エステって一回で効果がでるの?」
僕はエステどころか美容その物に縁がない。でも、秋吉さんに会ったら何か言わないと気まずい訳で。見当違いの所を誉めたら、
でも、竜也は芸能人で、徹は経営者だ。僕よりは知識はある筈。
「難しい所だな。一回で目に見えて効果が出るって言うと誇大広告になるし……実達は元々肌が綺麗だからな」
徹、なに惚気ているの?本当のビジネスモードとのギャップが凄いんだから。
「僕も良くエステを受けさせてもらうんだけど、凄くリラックス出来るんだ。一回だと目に見えての効果は少ないけど、気持は違うと思うな……徹、どんなコースを受けたか分からないの?」
アイドルだけあって、竜也は美容に気を使っているらしい。僕には縁のない世界です。
「美顔と脱毛らしいな。肌を誉めておくのが無難だと思うぞ」
肌か……あまりジロジロ見られたら嫌だし、セクハラになるよね。
……よし、決めた。秋吉さんのテンションを見てから何を言うか決めよう。
◇
僕が甘かった。エステって凄い。
「信吾君、お待たせ……変じゃないかな?」
多分、メイクもしてもらったんだろう。恥ずかしそうに話す秋吉さんは輝いてみえた。
綺麗とか美人なんて言葉が陳腐に思える位、輝いてみえる。
「エステって凄いんだね。秋吉さんの魅力が倍増しているよ」
これが僕の正直な感想だ。具体的な事を言わなかったので、セクハラ扱いはされない筈。
「倍増って、大袈裟なんだから……日焼けのケアもしてもらえたから、ラッキーだったよ」
後から聞いたら、かなり高価なコースとの事。撮影を見せないのが目的かもしれないけど、徹の個人的思惑も入っていると思う。
だって……。
「綺麗だぞ。芸能界にスカウトされるんじゃないか?」
徹が夏空さんをべた褒めしている……でも、さっきから竜也の事務所の人を視線で警戒しているよね。
「馬鹿っ!何言ってるんだよ、恥ずかしい……でも、ありがとう」
徹はビジネスマンだけあり、誉める時は手放しでほめる。
そして真っ赤になって照れる夏空さん。
なぜかガッツポーズをするマーチャントグループの皆様。
「素直な感想だよ。皆、晩飯はホテルのレストランで良いか?」
良いかと言われても出資者の意見に従うしかない訳で……。
「あたい、普段着しか持ってきてないぞ。ドレスコードとか大丈夫なの?」
さっきまでの笑顔が消えて、心配そうに尋ねる夏空さん。
ここは微妙なところだ。一流ホテルならドレスコードとか厳しそうだけど、ここはそこまでではないと思う。
でも、子供だけで食事をするのを快く思わない人もいるだろう。
(大声で騒ぐお客さんって、地味に困るんだよな)
うちデモ入学したての大学生さんが合コンに使って、苦情が来た事がある。このメンバーで、そんな事はないと思うけど学生だけって時点で目立ってしまう。竜也と桃瀬さんがいるの、目立つ事は避けたい。
もし盗撮でもされて『スリーハーツのユウが同級生の女の子とお泊りデート』なんて書かれたらスキャンダルになってしまう。
「そこは心配しなくても大丈夫だよ。コース料理だけど、肩肘張らなくて良いから」
……マナーは一通り仕込まれているけど、コース料理って緊張するよ。
◇
確かに、ここなら人目を気にしなくても良いし、盗撮の心配もないと思う。
でも、ここで緊張するなって言うのは無理だ。
「徹、ここってVIPルームだよね?」
案内されたのは、最上階にある豪華な部屋。大きな窓からは夜景が見えている。
「竜也と桃瀬さんがいるからな。ちなみに、このフロアは関係者以外立ち入り禁止にしてある」
分かっていたけど、金持ちのレベルが違い過ぎる。
「それじゃ、エレベーターの所にいた人達って……」
エレベーターを降りたら、妙にごつい人達がいたんだよね。服装は普通だったけど、体格が凄かった。
「うちの法務部の職員だ。林間合宿や児童館の時も動いてもらったんだぜ。林間合宿の件なんて世間にバレたら大問題になっていたんだぞ」
今なら分かる。百合崎さんのお父さんの顔色が変わったのは、徹を見つけたからだ。そりゃそうだ。自分の娘が犯罪紛いの事をしている所に、グループ代表の息子がいるんだもん。
「僕としては有難いけど、百瀬さん達にはなんて言うの?」
竜也がユウって事はもちろん、徹がマーチャントグループ代表の跡取り息子なんて言えない。
(いつまで隠し通せるんだろ?こういうのって、長くなるほどダメージが大きくなると思うんだよね)
「桃瀬さんがいたからオーナーが気を効かせてくれたのと、席に空きがなくて、ホテルの都合でここになったって言っておくさ。ホテルの都合なのは、事実なんだし」
徹、それ力技過ぎない?
◇
……芸が細かいと言うか、何と言うか。
「こんな凄い部屋で、ご飯が食べられるなんて陽菜のお陰だね」
どうやらエステの時点で、オーナーが桃瀬さんのファンだって話をしていたらしい。
「百合崎さんって人。後からお礼を言っておかなきゃ」
オーナー、百合崎……朝徹に怒られていた人か……まさかね。
◇
信吾達がホテルに泊まった数日後、百合崎姫奈は苛立っていた。いつもなら海外で過ごしている時期なのに、父親から『お前の所為で、とんでもない事になった』と叱られ、海外旅行が中止になったのだ。
しかもいつも可愛がってくれる叔父まで機嫌が悪くお小遣いをくれない。
(庄仁に絶対に関わるなって言ってたけど、あいつが原因なの?)
父と叔父のそれは警告と言うより、懇願に近い物であった。しかし、姫奈は逆恨みをしたのだ。
(庄仁は夏空祭と仲が良かったわよね……そうだ!)
「名納、久し振り……あんたのお気に入りだった夏空祭に男が出来たわよ」
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