303 家族になろうよ②

 さあどうかな、と口ずさむように言ってロンは振り返る。まだ執務机に片手をついているディノを見て、ひょいと眉を上げた。


「辛そうだね。久方の発作だから無理もないかな。そうだ、ハーブティーを淹れてあげようか。リラックスできるよ」


 そう言ってロンは簡易キッチンへと向かう。ロンが背中を見せている間に、ディノは執務机を漁った。

 養子縁組はどう考えてもロンの目的に沿わない。彼の口振りからして、ジェーンを諦めたということはまずないだろう。絶対に裏があるはずだ。

 天板下の引き出しを調べたディノは、横の三段引き出しに手をかけた。


「ディノくん、ハーブの種類はなにがいい?」


 そこへふいに声をかけられ、ディノは肩が跳ねた。顔だけ覗かせてみると、ロンはまだキッチンに向かっている。


「なにがあるんだ?」


 なるべくそちらに注意を引かせようと、会話を延ばした。その間にも引き出しを下から開けていく。


「んー。カモミールとローズヒップと、シナモンアップルだね」

「……妙に女子力高いな」

「ん? どれだって?」


 あー、と悩むふりをしつつ一番上段の引き出しを開けた時、黒い革製の手帳が現れた。


「シナモンアップル!」

「ははは。やっぱりね。ディノくんは案外、女の子っぽいもの好きだよねえ」


 手帳を掴み、サッと床に広げる。十月の予定欄に目を走らせるが、それらしい記述はない。焦る気持ちを抑えながら、ディノはメモ欄まで手早くページをめくった。その途中に、折りたたまれた紙が挟まっている。


「これは……」

「ディノくん? なにしてるんだい」


 その時、ロンの声が近くから聞こえた。


「そんなところでうずくまって。体調が悪化したのかい? それとも……」


 ハーブティーの湯気越しにロンがぬっと執務机を覗き込む。


「いや。靴ひもを結んでいただけだ」


 ディノはスニーカーのひもをぎゅっと縛り、なに食わぬ顔で立ち上がる。ロンが目ですばやく確認した引き出しは元通りだ。もちろん手帳も中に収まっている。


「いい香りだな。もらっておく」


 ディノはロンが手にしたトレイからティーカップを受け取り、ソファセットのほうへ歩いていった。クリエイション・マジック・ガーデンを描いた絵に目をやりながら、脳裏には先ほど見つけた書類を思い浮かべる。

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