45 無愛想に隠れた優しさ①

 一時間が過ぎ、二時間経ってもレイジのメモ紙は出てこなかった。冬の太陽はせっかちで、陽光にもう金色の光を帯びはじめている。

 何個目かわからないゴミ袋の口を結び直して、ジェーンは座り込んだ。


「私が捨てたあとに、誰か動かしたかもしれないもんね」


 最初に目をつけたところに、朝出したゴミ袋はなかった。その周辺からしらみ潰しに手をつけてみたが、まったく手応えがない。

 こうなってくるとメモを見落としただけで、すでに漁ったゴミ袋が目当てのものだった可能性も出てくる。


「見つかるまで帰れないのかな。おうちに帰りたいよお……」

「あんた、こんなところでなにやってんだ?」


 突然降って湧いた声にジェーンはびくりと肩を跳ねさせ、飛び上がった。振り返るとカーキ色のつなぎ服を着た男がリヤカーを引いている。


「ぎゃあ! 回収業者さんすみません! ゴミまだ持っていかないでください……!」

「おいおい。ルームメイトの顔忘れたのかよ」


 服装でてっきり業者の人だと思ったのは、緑の呆れた目でジェーンを見るディノだった。


「ディノ! 会えてうれしいです!」

「あー。お疲れ」


 ディノはジェーンが漁っている物置きからふたつ離れたそれを開け、台車にたんまりと積み上げられている落ち葉入りの袋を放り込みはじめた。園芸部は今日、ガーデンのどこかで清掃をしていたらしい。

 両手に袋をふたつずつ軽々と持って、涼しい顔つきで次々と運んでいくディノの姿にジェーンは見入る。同じゴミ捨て作業でも、効率を考えた無駄のない動きはこうも美しいのか。


「で。あんたこんなところでなにサボってるんだ」


 手は止めないまま寄越された言葉にジェーンはムッとした。


「サボりじゃありません。企画書のメモを探しているんです!」

「間違えて捨てたのか」

「私は捨ててません! でもレイジさんに探してこいと言われたので、仕方なく……」

「ふうん。整備部の新人は大変そうだな」


 そうこうしているうちにリヤカーのゴミはなくなろうとしていた。ジェーンは慌ててメモ探しに戻る。自分もてきぱきと動かなければ、本当に帰れなくなるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る