第1話 再び魔女の隠れ家 1
満天の星空を、大人もみんな寝ているそんな時、3人で見上げていた。
そこは、家のすぐ近く。普段から遊んでいる少し開けた場所で、すぐ近くでは日中はよく母たちが集まって話し込んでる。午前中は日の光を遮って影を作るので、涼しいからだろう。
だけど、今は少し寒い。砂漠の夜は寒いっていうのは冬だけなんて言う人もいるらしいけど、日中がとっても暑いから夏の夜だって寒く感じる。
ぶるりと、体を震わす。すると、体温で温めた地面からずれて、寒い地肌に触れてしまう。そうなると、目の前の星空じゃなくて、急に周りの気温だとか、そういうのに気が言ってしまう。
だからかは分からないけど、右隣の‗⁂^●’がゴソッと身体を動かしたのに気付いた。そちらに顔を向けると、ばっちり目が合う。
「ねぇ、×▤⁺」
ニコリと笑みを浮かべて、彼は私に声をかけてきた。
「なに?」
どうせ、いつもの謎かけみたいなものかと思いながらも答える。
「星空を見ると、思うんだよ。あの光一つ一つにはどんな意味があって、どうしてそこにあるのかって」
案の定だった。
「馬鹿だろ。そこにあるからあるだけだろ」
と、一刀両断に切り捨てたのは左隣にいる✘)☥¿∴’〟。
「えぇ、全てのことには意味があるでしょ? 父さんも母さんも、爺も言ってたじゃん」
「ケッ、ならお前が野糞するのも意味があって、地面にくだらない絵をかくのも意味がって、今みたいな変てこりんでジジババみたいな考えを言うのにも意味があるってのか?」
「うん」
「あほらし」
二人は相も変わらず言い争っている。前までは私が止めなければ殴り合いになっていた(大抵いつもは✘)☥¿∴’〟が殴りかかっていた)けど、最近は言い争いで収まってる。すっかり丸くなって、とは母の談だ。
私も、母の言いたいことはなんとなくわかる。二人は争っているようで楽しんでる。いってはいけないこと、やってはいけないことを知り尽くしてるから、こんなどこか気持ちいい雰囲気になるんだと思う。
いつまでも、こうだったらいいのに、私はそう思う────
◆◇◆◇◆◇◆
ピピピピピピ ピピピピピピ
目覚まし時計の電子的な音が鳴る。
まるで、起きろ起きろと責め立てているように感じる。
物語の主人公はここで唸って起きるか、音を止めて二度寝をするのかのどちらかだ。だが、俺はそれに反抗し、破壊しようかと一考する。が、それもこのマンネリの日常に終止符を打ちたいから。自分はそう認識している。
フェリと別れて10日。魔女の隠れ家に戻り、オトルスと対抗するために作戦を練っている。とは言え、オトルスの動きはうまく掴めていない。いや、正確を期すなら、何をしているのかわからないと言った有様だ。もしかしたら、本当に何もしていないのかもしれない。
だが、そういった楽観的な考えで行動してはいけない。
今、敵としているのは長年世の闇に住み着いているオトルスなのだ。何があったもおかしくないし、そのような気構えでいた方が良いのだ。
「なんか、カッコつけてますけど、髪ボサボサですよ」
オウランの心温かい言葉を噛み締めつつ、ベッドから出る。けれども、寝間着の隙間から入ってくる空気は冷たく、それを証明するように鳥肌が立ち、体が震える。
ここ、ギリシャを含むヨーロッパは冬の真っ只中。クリスマスはとっくのとうに過ぎ去り、ただ寒い冬だけが居座っている。ここにいては凍え死んでしまうのではないかと思うのだが、ありがたいことに『全能神』がある。室内温度の調節などちょちょいのちょいである。
室内温度を26℃に上げてから、脱衣室の扉を開く。すると、目の前には寝癖のついた男の顔が映った鏡。どこからどう見ても俺の顔。寝ぼけ眼なのはマイナス点だが、おおむねイケメンだ。
蛇口を捻り、手にいっぱい水を溜め、顔に叩きつけるようにする。これを、4回ほど繰り返せば、男前の顔が鏡に映る。最後に濡れた手で髪を整えれば完璧。
「オウラン、惚れてもいいんだぞ?」
「ついに、頭がどうかしましたか」
ふざけた調子の言葉をバッサリ切られた。キッレキレですね、オウランたん。
「頭は大丈夫だよ。ちょっとばかり、困ったことはあるけど」
「オトルスのことですか?」
「あぁ、本当にあいつらは、ね」
今でも、思い出せば怒りが煮え繰り返してくる。あいつらになんど煮湯を飲まされたことか。
「けど、あと少しだよ。あと少しでケリがつく。オトルスの最終目的とやらを潰して、そのまま壊滅させてやるよ。今の俺なら、簡単にできる」
「そう、ですね」
オトルスのボス、それを倒せば、このくだらない戦いが終わる。そして、全てうまくいく。俺の望んだ通りに、全て、完璧にできる。
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