幕間
第⬛︎話 絶望
血が滴っている。
ポチャン
と、どす黒い血だまりに音を立てて落ちる。
手元にある刃に部屋の中に差し込む光があたりキラリと鈍く、淡く、反射する。
頬を拭った手を見れば赤い血が擦れて付着していた。
見慣れた赤い血。
いつからか、血を見ても良心が呵責を起こすことはなくなり、ただ血があるという事実だけを認識するようになった。
変わったのかもしれない。
いや、変わったのだろう。
数年前は血を少し見るだけで吐き気を催し、人を一人殺めるだけで涙が出そうになった。
壊れてしまったのかもしれない。
けれど、これは必要なことだったのかもしれない、自分が人のような心を持っていたという心に留めておくためには、自分が人であった名残を思い起こさせるためには。
それは、とても残酷だけど私に教えてくれる。
この世界の真実を。
そう、無慈悲で、平等に人に不幸を振り下ろすような世界だという真実を。
だから私は、自分が殺めた人のことを哀れむことはあっても、殺めたこと自体は後悔しない。
なぜって、その行為は今の自分にとって正しいことだと思ってるから。
けれど、正しいことと思うためには過度な感情移入はしてはいけなかったのだ。
これまでそうであったように、今回もそうであるはずだった。
そうでなければいけなかったのに。
現実は無慈悲で、理不尽で、残酷だから……。
彼らと、いや彼と顔を合わせた時に気付いてしまった。
彼は私の◼︎◼︎◼︎だったということが。
けれど、私の身を縛る魔法は私の意志を一切表に出さず、彼を殺した。
私が生きるために了承したその
自らにとって◼︎のような存在を殺すことの辛さが私の心を蝕む。
血に濡れた手が震えた。
彼、フェリの頭領、ジェイソン・パウエルを殺したという事実が残り、悲しみだけが私の心に残った。
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