第8話 ”フェリ”の隠れ家 2
受付を素通りし、幾つも扉を潜り、人気の少ない場所へと案内された。
そして、完全に人がいなくなったところで、リデルさんが口を開いた。
「ここから起こることに驚かないでくださいね」
少し茶目っ気を感じる笑顔をして、リデルさんは何の変哲もない壁の中に入っていく。
……why?
––––oh...
「……へ?」
三者三様、まるでお上りさんのようにポカンとしてしまった。
そう、これまで普通のビルなので地下に案内されたら『ザ・近代的な魔法結社』のようなところにつくと考えていたのに、現実は想像の斜め横をいっていた。
惚けていたため、俺と桐沼はリデルさんが入っていった壁の前で棒立ちになる。
リデルさんが、俺たちが痺れを切らしたのか、壁から上半身を出してきた。
「とにかく、入ってください」
そう言って、俺と桐沼の手首を掴んでリデルさんは壁の中へ俺たちを引っ張り込んでくる。
壁が目の前に迫ったため思わず、目を瞑ってしまう。
リデルさんが手を離したことで、落ち着いた気分になった。
慌てず、目を開くと、そこには巨大な魔法陣の描かれた壁があった。
円や多角形の模様や絵文字のようなものが壁を埋めるように描かれ、理解のできない文字が躍っている。
「これは?」
「地下に行くための魔法陣です」
「地下?」
「はい、このビルの下には巨大な空間が広がっています。もちろん、土を魔法で補強してあるので地盤沈下などは起きません」
「この魔法陣を使って行くんですか?」
「はい」
リデルさんと桐沼の会話が横で行われている間、俺は周りを見渡す。
横を見れば、3m ほど離れるた場所に壁があるため、凹型の中にいるということがわかる。
天井の高さは変わらず、床も深くなったりしているわけではない。
しかし一度、桐沼の転移魔法陣を見せてもらったことがあるが、平面ではなく立体の形をしていた。
それに、その立体の形であっても複雑なものだった。
いくら縦3m 横9m ほどの大きさを持つといってもこれで大丈夫なのだろうかと疑問を感じる。
「これのうち、8割ほどがダミーなんですよ。正しいところに手を置かないと一発で死地に放り込まれるんですよ」
と、リデルさんが桐沼に自慢している声が聞こえる。
––––8割がダミーで、間違えたら死地送り?
それを聞いたのかオウランが戦慄している。
かくいう俺も、戦慄しているが。
「それじゃあ、行きましょうか」
そう言ってリデルさんは桐沼の手首を掴んだ。
そして、なぜか俺にも手を差し出してくる。
「……?」
疑問に思っていると
「これから、地下に転移するわけなんだけど、私に触れてないと一緒に行けないから、肩にでも触っておいてくれる?」
「わ、わかりました」
ここに入っただけで一緒に行けると思ってたよ。
しょうがないので、リデルさんの肩に手を置く。
––––役得ですね〜
オウラン、煩い。
––––酷いです。私にはもう飽きたっていうんですね。
……誤解を招きそうなことを言わないでくれないかな?
そんな、くだらないことを脳内でオウランと喋っている間に、リデルさんが、壁に手を置く。
壁に描かれた円の中で人の手がようやっと収まる程度の大きさの円。
その円内に手を置くと、その円が光り輝いていく。
円を、絵文字をなぞるように光る。
それは小さいころ感じたようなワクワクとした高揚と、どんなところへ行ってしまうのだろうかという恐怖を思わせた。
そして、光が強くなり、俺は瞼を閉じた。
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