第16話 餓者髑髏

「へ〜、あんただったんだ、葵達を陥れていたのは!」


そこには、前見たよりも少しやつれていた百合草 葵ゆりぐさ あおいが殺さんと言わんばかりの形相で睨んでいた。


「いや、僕には何を言ってるのかがわからないんだけど…」


「とぼけないでよ!今まで葵の邪魔をしていたのはわかってるんだよ!」


葵は激昂したように捲し立てる。


「そうか、あんたはあの桜 彩さくら さやの金魚のフンだもんね。お前が、桜に吹き込んだのわかってるんだから!!」


「いやだから、僕はなにも…」


「この前、席の嫌がらせ葵達がやったと思ってるの?勘違いで葵に突っかかるのマジでうざい!」


亮が弁解する余地もなく、マシンガンのように言葉を発する百合草に亮の心は穴だらけになった。


(やれやれ、今頃、勘違い系なんてヒロインとしての人気は出ねーぞ…)


亮のやれやれ系の態度に腹を立てたのか、イラついたのか、不愉快だったのか、百合草の言葉弾丸の連射速度が増し始めた瞬間、ついに切れた。










地面が……


「ふえ?」


どうやらいきなり地面が割れたようで体が浮遊感に包まれ、お腹がこちょがしく感じる。


百合草はもはや状況についていけてないようで、ただ虚な目で空を見上げながら落ち始めている。


そしてゆっくりと体の重い部位であろう頭の位置が下にくるように、ゆっくりと回転し始めながら落ち始めた。


それに伴い髪の毛が回転方向と垂直に浮き上がっている。


このままでは、亮と2人とも、地面の裂け目に落ちてしまうだろう。


皐月をいじめていたとはいえ、まだ中学生2年生ここで死んでしまうにはあまりにも若い。


これから、きっと輝かしいとは言わなくても、未来が残っている。


そんな、1人の少女が、過ちを犯しているとはいえ、死にゆく場面を見ている亮は.....


(ざああまあああ!俺の話を聞かないからだ!!人の話を聞かない奴にざまー執行!!ざーこ!ざーこ!せいぜいこれから頭を下にして眠れなくなるんだな!)


百合草の視線の先で2本の中指を立て、ベロを出し煽っていた。


とても主人公の器ではなかった。主人公というにはあまりにも小さすぎた。小さく、細くそれでいて、脆かった……。


百合草は本当に呆然としていたのだろうか?それとも亮の煽りに怒りが天元突破した時の一瞬の真顔であったのかは、知る由もない亮であった。







「起きろ〜〜おーい起きろ〜」


亮は、落下のショックで気を失っている百合草に起床を促していた。


そしてそのままゆっくりと瞼を開くと…


百合草はいきなり身体を捻りその勢いで亮の右頬に深く拳を挿入した。


「………」


「ぶへら!!」


そのまま、慣性の法則に従って錐揉み回転して吹っ飛ぶ亮


「いっってええお前なにするの?」


いきなり殴られたため言葉が乱暴になる。


「何って…私のこの溢れんばかりの気持ちがわからないの?」


「あ〜よーおーーくわかってるよ、そこに愛がないことくらいな!」


目覚めた直後から、機嫌が悪いことに対して不思議に思う亮。


「葵、お前の不愉快なものを見て、今とても気分が悪いの…」


「そっかーじゃあ休もうぜ、俺が休ませてあげるよ永劫のな!」




「はああーーーーー」


いきなりため息を吐く百合草を、眉を顰めて見上げる。


「なんだよ」


「あんた、そんな性格だったんだ…。猫被ってたんだ、性格悪いわね」


「僕には何言ってるのかがわからないなあ」


「キモいんだけど、うざいんだけど、普通に話してくんない?」


普通に素を隠していたことがバレてしまうが、別にバレても特に不利益がないと判断して、元の口調で話始める。


「.....あんたこそ、随分と言葉が柔らかくなったじゃないか、お前だの強い言葉はどうした?」


「人の名前も覚えてないの、あんたって呼ばないでくれる虫唾がはしる。」


「……百合草さん…」


「で、どこの方向に行くの?葵はわかんない、あんt…小鳥遊はどっちに行くつもり?」


ナチュラルに質問をスルーされた事実に抗議しようと一瞬思うも、百合草が言うことの方が優先順位が高いため、湧き上がる気持ちをグッと抑える。


「……ここは広いホールになってる感じだな、声がエコーする感じからそんなに広くはないな。」


「へー」


百合草は、周りをキョロキョロと見渡しながら、興味なさそうに返事をする


「まあ、壁沿いにつたれば出口くらい見つかるだr…」


亮が具体的な行動案を出そうとしたその瞬間、広いホールの中にあった魔素が光を放ち始める。


周囲にあった魔素が収束して、結晶化が始まり出した。


その結晶はどんどんと人型の外見を形作り始める。


ある条件下のもとで生じる魔結晶生命体まけっしょうせいめいたい、通称、魔晶体ましょうたい


世界の意思や、残留思念などが、マソに干渉するなどと諸説が存在するまだよく分かっていない未判明生命体が誕生する予兆にとても酷似していた。


「まさか!魔晶体!」


百合草が悲鳴に近い声をあげて、数歩あとずさる。


亮はその様子を横目で見て


(こいつはあてにならないな…)


さっさと状況で使える駒を計算して、勝率を計算する。魔晶体は通常は深い深度で魔素が濃くないと発現しない現象。


(多分ここに溜まった魔素が飽和を迎えて爆発したのが地表に溢れたんだろう。


溢れれば魔素の濃度がいきなり低下して魔結晶を作ってしまう、しかし今回は生命体が誕生したわけか…。


それがよりによって、今か…)


百合草は、体が固まって動けないでいるようだ。


魔結晶が綺麗に周りを照らしながら、その形を作り上げていく。生命が誕生する神秘的な光景がそこには広がっていた。


結晶が、人間の骨格を作り上げていく。


「す、スケルトン?」


百合草が呟いた。


そう、結晶が作り上げたのは、スケルトン。日本で言うところの、がしゃどくろであった。


亮もまた、その光景を見て唖然としてしまう。そいつは、亮が画面の向こう側で、何度も目にしたことがあるくそ野郎がしゃどくろ


桜の喉を掻き切り、殺した場面。


その死体を飲み込まれるのを何も出来ずにいる主人公に腹を立てた感情気持ち


一瞬にして、脳みそに焼きついた情景が、高圧洗浄機で清掃された後のように鮮明に、綺麗に蘇る。


(こいつは殺さなければ、絶対になんとしてでも!)


自然と亮の拳に力が入る。


こうして、桜 彩との因縁深いがしゃどくろとの戦いの幕が切られた。






追記


更新遅くなってすみませぬm(_ _;)m












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