第15話 油断大敵

「それでは、指導者さんの指示に従って行動してください!従わなかった場合最悪死ぬこともありますので、必ず指示には従い、自分勝手な行動は控えてください。

もしこれらが守られなかった場合、最悪学校へ強制送還させていただきます。各々が自覚をもって行動してください。」


長々と注意事項を述べて、何回も同じことを言っていた先生の話がやっと終了した。


今日、亮達は魔物生息領域、通称魔生域というところに来ていた。


魔物の発生条件は、動物の脳に魔素が高濃度で詰り、結晶化することによって引き起こされる。


魔物になってしまうと、より魔素が高濃度の場所で生活することを好む傾向がある。


しかし魔素は普通の空気よりも重い粒子であるため、下の方にたまりやすい。


故に魔物たちは穴を掘り進め魔素の濃度をより濃くするために、地下へと堀進めていくという特性があるのだ。


そして魔生域で生じた穴が皆さんご存じ「ダンジョン」と呼ばれる穴となる。


つまり、魔素が濃い場所に魔物が集まってきて魔生域を形成し、そこから魔物が穴を下に掘り進めていきダンジョンができるのである。


しかし今回連れてこられた場所は、ダンジョンができる前のただの魔生域である。


これは地表にしか魔物が生息しておらず、まだ魔素の濃度も地下深くの場所と比べると薄いため、比較的弱い魔物が生息している。


「3組の人は集合してくださ~い」


長い先生の話が終わり、生徒たちがバラバラに会話をしていると、集合の指示が飛んできた。


そう言われたので亮も呼ばれた方向に歩いていく。


「3組の皆さんはくじ引きの結果一番最初に魔生域を回ることになりました。よって今から、身を守る防具などを着てもらい、班ごとに回ってもらいます。それでは防具を各自もらって班の指導者の指示に従って行動してください。」


防具などが何処にあるのかや、防具の着方など基本事項をインストラクターから聞いた後、各々が歩いて、所定のところに防具をもらいに行く。


亮も防具をもらいに行こうとしたとき聞きなれない声が聞こえて来た。


「君! 君が小鳥遊君であっているかな?」


そう聞いてきたのは髪をツーブロックにした男子生徒であった。


前髪は少し遊ばせており、髪全体にワックスを付けている。


お洒落上級者、クラスのイケイケ集団の一員であることが見受けられた。


「え~僕が小鳥遊ですけど、どうしたんですか?」


そのように返事を返すと、後ろの方から、


「ぷっはああ!!!」


といきなり吹きだしたような笑い声がきこえてきたが無視を決め込む。


「君が英梨のよくない噂をばらまいているということを聞いてね。やめてもらいに来たんだ。」


「はあ~、そうなんですかお疲れ様です。」


「単刀直入に言わせてもらうけど、君が振られて、英梨を憎むというきもとも十分理解できる。だがこんなことをしても彼女は君に振り向くことはないんだよ。」


「なるほど」


「そもそもそんなことをしている時点でヒトとして恥ずかしと思うよ。」


「そうですね」


「まあ、これからの小鳥遊君の行動次第では僕も容赦しないから。英梨を傷つけるやつに僕は容赦しないから。 それじゃあね!」


最後だけ亮の耳元で吐き捨てにこやかに去っていく男子生徒。


周りの生徒に英梨に告白して振られ、しかもよくない噂を流していることになった亮。


心なしか周りの生徒の視線の切れ味が増したように感じる。


あまりにも精神的ダメージが大きすぎて立ち尽くしていると、


いきなり右から肩を組まれて、話しかけてくる人物ひとがいた。


薄い桃色が入っている髪の毛がちょうど目に入る。近くで見る桜の髪の毛はストレートで一つ一つがきめ細かく、サラサラとしている。


白が基調の彼女の髪はまるでカーテンのようにユラリユラリとなびいていていつもより距離が近いためか、髪の毛が亮の頰をくすぐってくる。


こちらを見上げてくる青い瞳は心なしかきらめいていて、その瞳の中心に位置する黄色い点眼が亮をとらえている。


そして、仲のいい友人と久ぶりに再会したように白い歯を見せて笑顔を作り、面白いおもちゃを見つけたように笑っている。


「いやあ、君はボクを笑い殺す気なのかな?ボクはもう少しで息ができずに窒息死してしまうかと思ったよ。」


「なあ、桜…」


桜がきょとんとした顔で、亮を見上げてくる。


「ん?どうしたんだいそんなに泣きそうな顔をして」


「俺、皐月に振られたんだって、これって遠回しに関わってくるなって言う牽制なのか?」


「あはっ!あははあははあああ!君はいつ、英梨に告白したんだい?言ってくれればヨウツベで全世界に生中継してあげたのに!いや!にしても、君の落ち込み具合がいひっ!あははあはああ」


文字通り笑い転げる桜に、亮はあふれ出る感情を押し殺して、


「お前は何にツボったのは知らないが、桜が面白そうで何よりだよ。本当に殺気が湧きそうで、湧きそうで堪えるの僕は必至だから、黙って居てくれない?」


何とか、言葉を振り絞った。


「きっひ!君には『僕』があまりにも似合っていないよ!もうだめだ!ボクは本当に死んでしまうかもしれない。英梨!助けてくれ!!」


そう言って桜は、目か大粒の涙があふれて、苦しそうに笑っている。


(こいつの笑いの沸点がわからなすぎる…)


亮はすでに殺意を通り越して、あきれの域に達してしまった。仕方ないので、桜の同伴者に対処を丸投げしようとする。


「皐月、頼むから桜をどうにかしてくれない?」


「すまない、お前の気持ちには答えることができない……二重の意味で……」


「あ!?おい皐月調子乗るなよ!?ぼそって言ったの聞こえてたからな!?なんだよ二重の意味って?」


桜はまだ笑いが引かないのかお腹を抱えており、皐月は申し訳なさそうに亮に対して頭を下げている。


気づけば周りには人影が消えていて、急いで防具を取りに急ぐことになった言うまでもない。










防具といっても、中世の鉄の鎧というわけでもなく、自衛隊が使っているような思い防弾チョッキでもなかった。


魔法の世界あるあるというべきか、魔法防御が付与されたダイビングスーツのようなものが渡された。


これを中に着込んで魔生域を探索するらしい。


(こんな薄い生地で本当に大丈夫なのか?)


亮は若干不安になりながらも、防具を着てクラスで同じ班になった人が集まっている所へ合流した。


「それでは、探索を開始しまーす」


僕たちの班を引率するであろうインストラクターが開始を宣言した。











こうして始まった、魔生域の探索は特筆すべき点もなく終了した。


ここにはいるはずの無い魔物がいきなり出てくるわけでもなく、クラスメイトの誰かが誘拐されて、悪の組織との戦闘に発展するような展開もなく無事イベントが終了した。


しかし、他クラスが魔生域を探検している間の待ち時間、トイレを済ませ外に出てみると、立ち入り禁止のエリアへ一人歩いていく百合草を見つけた。


(ま~た、皐月にちょっかいを出しているのか…)


もう最近は迷走して、皐月が捨てたペットボトルをあさっては燃やすという奇行に走り始めた百合草達。


亮は、彼女らが何処へ向かっているのかわからなくなってきた。


(日常の奇怪こそが人間性を破壊してしまうというというか、なんというか……恐ろしいな。)


1人で人気の少ない所へ歩いていく百合草の後をつけながら歩いていく。


そして、百合草は、土の中に何かを埋めたかと思うと、来た道を引き返してきた。


周囲に誰もいなくなったことを確認した亮は、何を埋めたのか確認しようと、土を掘り返していると、


「そこには何にも埋めていないよ、残念だったね。」


ビックリして亮は、思わず振り返ってしまう。


「へ〜、あんただったんだ、葵達を陥れていたのは!」


そこには、前見たよりも少しやつれていた百合草 葵ゆりぐさ あおいが殺さんと言わんばかりの形相で睨んでいた。








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