第12話 世の家とパズル【私side】
「来てくれてありがとうね」
「いいよ、いいよ」
月ちゃんにお願いされたのではなく、自分で手伝うよって言ったから別にそこまで感謝される必要はない。
私たちは放課後、物理室に来て掃除をしている。月ちゃんの掃除班は本当は5人なんだけど、1人は休みでかつ2人は用事があるみたいなので人数が足りないらしい。だから、私が手伝うことにしたんだ。あともう1人は
「でも天架くん、よかったねあれ嘘で」
「最初なんかの集金があるのかなと思っちゃったんだよね」
そうなんだと思いながら後ろの方からほうきで掃いていく。角っこの方に埃が溜まっている。
「あ、月じゃん、3人しかいないの?」
「まあ、皆用事とかあって」
誰かが物理室のドアを開けた後にそう言う。あれは……隣のクラスの頼希か。私と同じ中学だった(世と私と頼希は同じ中学から来た)から彼のことはなんとなく知っている。たしか世と仲が良かったっけ。そういえば月ちゃん、頼希のこと知ってたんだ。
「じゃあ、俺も手伝うよ。何すればいい?」
「じゃあほうきお願い」
「おーけー」
頼希は掃除用具からほうきを出し、私と供にほうきで掃いていく。私と頼希がほうきでだいたいはき終えると、ゴミ集めは頼希に任せて私は黒板を綺麗にした。黒板にはFe、Cl、Cr、Niなどの元素記号が書かれていた。私は黒板消しでそれを消していく。掃除手伝ってくれるなんて、頼希って優しい人だな。
「はい、三織ちゃん」
「どうも」
月ちゃんはやることが終わったらしく、黒板クリーナーで綺麗にした黒板消しを私に渡してくれた。
全部終わると軽く反省会をし、天架くんは少し急いだ様子で昇降口の方に行ってしまった。用事でもあるのだろう。
「ねー頼希くん、この後どこか行かない? 三織ちゃんも!」
「俺はいいけど」
「あ、ごめん私は」
「そうか、大丈夫だよ」
ごめん月ちゃん! 私は今日も夕飯があるので。私を待ってくれる人がいるので。
そういえばさっきも思ったけど月ちゃんと頼希はいつ仲良くなったんだろう。
私は昇降口を出ると朝来た道を戻っていく。そこに私の足跡が残っているかのように朝と同じ道を。
バスに乗っている途中で(私は一番後ろの席に座った)世からラインが来て、
『お弁当美味しそうって言われたよ! ありがとう作ってくれて!』
そう送られてきた。なので私は、
『よかった。私の弁当で沢山青春してください! (なんちゃって笑)』
と返信した。よかったというか認められたみたいで嬉しいな。私の料理を褒めてくれる人がいて。
顔をあげるといくつかある広告の中に七夕祭りのポスターが貼られていた。どこか世と行きたいな。でも、世は少し嫌がるかな。まあ、恋人じゃないんだけどね、私たちは。
そういえば今日は世の家か。なんか少し林間学校に行くみたいで楽しみかも、人の家に行くって。
「ただいま」
「おかえり」
私は一度家に帰った後に世の家に行ったので世はもう家(マンション)にいた。私はグーグルマップが導いてくれたから迷わずに着けた。ただ、3階まで階段を上るのはそこだけでかなりの運動になった。
「じゃあ、ご飯作るね」
私の仕事はこれからなのだ。荷物を置き、手を洗った後、すぐに料理に取り掛かろうとした。
「あ、三織、今日初めてくるしあれかなと思って、スーパーで弁当買ってきちゃった」
「うん、そうか、分かった」
世はキッチンの方を指した。そこには2つのお弁当が置いてある。世はどうやらもう夕飯を用意してたみたいだった。それなら、いっか。
「そうだ、三織の部屋はあそこね。ごめんね家狭くて」
「いや、別にそんなことないよ」
たしかに私の家よりはひと回り小さいけど、2人で暮らすには十分だ。それより木の匂いが檜風呂にいるみたいに漂ってる。世の部屋はリビングの隣で私の部屋は手前の方みたいだった。世は私の部屋に入ると電気をつけた。ピカッと急に光りの世界に変化する。
「三織の家よりは居心地よくないと思うけど、我慢して」
「いや、いい部屋だよ」
私は自分でもよくわからない感想を述べた後、部屋の奥まで入った。
「お母さんとお父さん、仲いいんだね」
その部屋にはベッドが2台、ここから動かしちゃいけないんではないかと思うほどの存在感を持ちながら並べられていた。
「まあ、2人ともいないけど」
「えっ?」
そういえば世のお父さんについて聞いてなかった。世が続けて少し重たそうな口を開く。
「――僕のお父さんは6年前から行方不明なんだ」
世はその言葉を淡々と、強弱もつけることなく述べていった。
「えっ……」
私は思わず言葉を漏らす。行方不明? ただ、私からはそのことについて聞くのが怖かったから聞けなかった。でも、少し経ってから世が説明してくれた。
世が言うには行方不明になる半月前から少し不可解な行動をしていたらしい。普段1人で出かけることの少ない日曜の夜にお父さんは外に出て消えた。
世のお父さんは「少しそこまで、出来るだけ早く帰えるから」と2人に言ったきり、電話がプツリと切れるように姿を消した。
お父さんが逃げた可能性もあるけど、そのときの家族の仲はよかったし、自殺という可能性もあるけどそんなふうには少しも見えなかったみたいだ。
わからないまま時は過ぎたが、世は今でもお父さんを待っているみたいだ。
「なんか、大きなわけがあるんだと思うから」
世はすごいなと思う。私だったら少し憎んでしまうかもしれないのに。なのに世はそんな気持ちを持たず、今も――。
「あ、これパズル!?」
私はこの少し重い話から話題を変えるため、この部屋にあったパズルを指差し、そう言った。見たことない大きなパズルだった。縦で1メートル以上はありそうだ。
「うん、お母さんがやってたみたいで」
「完成図的なやつはないの?」
「あ、探したけどそれがないんだよね。だから困ってるんだよ」
それはかなりの難題。クロスワードの上級より難しそう。一体どんなの作品ができあがるんだろう。なんかの建物、かな?
「あ、入っちゃった」
試しに1つピースを取り、(本当に)当てずっぽでやったのに、当たり前のように入ってしまった。思わず私の口が開く。
「三織、天才!」
「いや、天才では……」
そこまでの話ではないと思うけど……。たまたまなんですよ……。私は曖昧に否定する。でも、意外と才能あるかも、私。
「このパズル、母がやってたからいつか完成させたいんだ」
「私も手伝うね」
そういうことなら、と私は答える。
「うん、三織氏にやってもらえると早く完成しそう」
「いや、氏はなくても……」
世って意外と大げさな所あるからな……。中学の時も調理実習で茹でるの10秒長くなったぐらいで大丈夫か聞いてきたし。
でもこのパズル、私も少しでも完成に近づけられるようにできたらいいな。なんか、自分の見るべき景色が――見たい景色がそこにありそう。
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