4章
第11話 想いを伝えるボード 【私side】
世に日記漫画を見られたのは誰かに一人で歌ってるところを見られたかのように恥ずかしかった。けれど、世が「上手なんだね」と言ってくれたことで、私の可能性の扉を開いてくれたような気がして、少し自信がついた。
私がこれを始めてから約3年の月日が経った。つまり中学の時から始めた。そのときからほとんど毎日書いてるからこれを描いたノートは何冊かあり、溜まってしまっている(溜まったノートは机の近くにあるキャビネット一番下の引き出しにしまわれている)。
将来漫画家になりたいと思ったのはだいたい小学5年生くらいの時かな。授業で4コマ漫画を描いてそれがクラスに評判になったのが多分始まり。先生も褒めてくれて、初めて自分の可能性を見つけられたそんな感じがした。
――それが夢の始まりだったなとベッドで横になりながら思う。
黄色い小鳥に優しく朝だよと起こされたかのように目が覚めた。今は朝の6時前。世はまだ夢の世界にいるだろうから起こさないように静かに1階に下りた。そう、お弁当作りだ。私と世の。
私はキッチンに立ち、次々と手際よく弁当の中身を作っていき、それを詰める。出来るだけ栄養バランスも考えてっと……。クラスは違うけど、もしものことを考えて全く同じだとあれなので盛り付け方を少し変えた。
ジャーン! 卵づくし弁当!
卵焼きに、卵チャーハン。
「あ、おはよう」
6時30分頃、世が起きてきた。私はそんな世に朝の挨拶をする。
「おはよう」
世はもうすでに学校の制服に着替えていた。私のいつも見る世だ。
「まだ、眠そうだね」
私とは対照的にまだ世は眠そうだった。私は朝には強い方なので、起きたときから頭がしっかり働く。
「昨日は少し仕事を探してたから。でも、なんとなく場所は見つかったよ」
そうか世は仕事を探してくれていたのか。だから私も世みたいに頑張らないといけないな。
「あっ、お弁当は作ってるから」
私は作り途中のお弁当箱を胸の高さまであげて世に見せながらそう言う。もうすぐお弁当が完成する。
「ありがとね、三織」
「うん」
私はそっと微笑む。
「おはよ、三織ちゃん」
いつもの通学路を通り学校に着くと、月ちゃんが今日もソーダみたいに爽やかな声で私に挨拶してくれた。
「おはよ」
私と月ちゃんはすぐ前の席(月ちゃんのほうが前)だ。私も挨拶を返す。
「そういえば夜、雨降ったみたいだね。水溜りが少しあったし……」
たしかに学校に来る途中、いくつか水溜りがあった。月ちゃんの言う通り夜の間に雨でも降ったんだろう。
「私も来るとき見つけたよ」
雨が降るのはそういえば久しぶりだな。何日ぶりだろうか。でも、雨が降った外の景色と今の私の心の中は対照的なようだ。
「そういえばさー昨日いいカフェ見つけたんだよ! 早速『想い伝えるボード』に書いておこう!」
「おお、いいんじゃね」
私たちの近くにいた男子が秘密の地図を見つけたかのように楽しそうに話していた。このクラスには『想いを伝えるボード』というものがあり、クラスの人が伝えたいことを書き込めるようになっている。でも、そのボードには『明日は◯◯の課題の締切日!』とか勉強に関する事務連絡な内容はなしで、『◯◯のお店の◯◯おいしい!』とかいう内容や、メッセージなどを書くもので、今は7割ほどが埋まっている。私はまだこのボードに書いたことはない。
「ねー、私たちもなんか書かない?」
「いいけど、なに書くの?」
「『私は漫画を描いてます!』って書けば?」
「いや、それはいいよ……」
私は少し大げさに首をふる。ちょっとそれはハードルが高いな……。思ってるよりこのボードの効果って高いんだよな。だったら『最近人生が変わりました!』って書きたい。
「まあ、見に行くだけ見にいこっ」
「それなら」
それくらいならいいけど……と思い、月ちゃんに着いていく。
私たちが見に行くと、
『1日1日を楽しめ! 自分が楽しまないと世界はよくならないぞ!』
とそういうメッセージを書いている人や、
『◯◯のチキンを久ぶりに食べたけど美味しかった!』
とあの有名ファーストフード店の感想を書いている人もいるし、
『皆は動物園と水族館どっち派?』
って言う感じで投票みたいなことを書いている人もいる(今のところ同点だった)。
『
というように他にもこんな感じで先生の特徴を書いている人もいた。
こんな感じでこのボードにはいろんなことが書かれている。このボードを読むのが趣味だっていう人もいるみたいだ。私もよく休み時間とかに見ている。
――想いを伝えるボード。
「おい、誰だよー」
この声の主は私たちの担任だ。少し笑う感じで――少し諦める感じで先生はそう言った。
「『家の家事忘れて、お小遣い2ヶ月減額になった先生を慰めてあげよう!』って書いたやつ」
「ふふっ」
このボードの近くにいた数人がくすっと笑った。これは(くわしくは言わないけど)昨日授業中に生徒に一本取られ、罰ゲームとして先生が秘密を言うことになり、先生がボソリと言っていたことだ。
「私じゃありませんけど、優しさ受け取りましょうよ! 優しい生徒からの慰めですよ!」
月ちゃんが冗談交じりにそう言う。そうだと私も思わず共感する。
「そうだな、じゃあ俺に1人1000円、募金してもらおうかな」
先生は天井を見上げながらまるで王様にでもなったかのように(少し威張った感じで)そう言う。
「すみません、先生、今日950円しか……」
先生がそう言ったあと、申し訳なさそうな感じで男子の1人がこの話に入ってくる。
「いや、いや冗談だから……」
そのことを先生は慌てて否定した。その人に向かって手を横に振る。
「あ、そうでしたか」
えっ? って少し思ってしまったけど、勿論それは冗談だった。多分先生に950円しかないって言ってた人はよく経緯がわかってなかったか、人のことを信じやすいタイプなのかな(もしくはわざと?)。
「そうだ、今日放課後、掃除班だからよろしくね」
「はい、了解です!」
先生は話を切り替え、月ちゃんにそう言って一旦教室を後にした。
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