第10話 三織の秘密 【僕side】

「湯加減大丈夫だった?」


「うん、ちょうどよかったよ」

 

 お風呂からあがったとき(いつもより長湯してしまったようだ)、三織はさっき机に置いてあったノートに何かを書いていたようで、僕が来ると見られてはいけないものでもあるかのように慌ててそれを閉じた。


「じゃあ、ドライヤーそこに置いといたから!」


「うん、ありがとう」


 三織は少し誤魔化すようにそう言ったあと、三織はソファーの方を指差した。そこには白色のドライヤーがある。三織は椅子から立ち上がりお風呂の方に行く。


「ね、わかってると思うけど、勝手に覗いちゃだめだからね!」


「もちろんです! そんなことしません!」


 三織が振り返ったので何を言うのかと思ったが、そんなこと(いや、大きいことだけど)を気にしていたのか。僕はすぐに三織の言ったことに対して反論した。僕はそんなことしません! というかできません! そんな人間ではないです!


「そうだよね」


 三織は準備していたかのようにその言葉を言った。もちろんです! 僕はしないから安心してください! というか別に興味ないです!


 三織は僕の言葉に安心したのか、タオルなどをもってお風呂に行く。


 少しテレビを見ながら休んだ後、髪を乾かした。そういえばさっき三織が何か書いていたな、慌てて隠していたし。少し気になり僕はそのノートの近くに立った。勉強のノートとかとは少し違う感じだった。自分の心の中を書いているような。


 髪を乾かし終えると、悪いかなと思いながらも気になる! という心の方が勝ってしまい、そのノートを少し覗いてしまった。


 ――四コマ漫画? 


 開くとそこには四コマ漫画みたいなものが描かれていた。丁寧に鉛筆で細かい描写まで1つ1つ。創作物語というより、どちらかというと日記のようなものだった。さっき三織はこれを書いていたのだろうか。今日の分を少し読んでみた。


 1コマ目、色はついていないけど、ブルーハワイみたいな青空の描写。『新しい生活が始まった』という文が吹き出しの中に書かれている。


 2コマ目、家の中――かな? ボウルの中にいろんな具材が入っている。挽き肉? 玉ねぎ? 何か料理をしているのかな。


 3コマ目、食べているシーンの描写。僕? と三織? がいる。僕みたいな人が『おいしい』って言っていて、三織みたいな人が『よかった』と言っている。楽しい食事の時間って感じがする。


 4コマ目、壮大に広がる夜空の描写。

 

『これから――』


「ちょっと世、覗かないって言ったじゃん!」


 えっ!? 僕は慌ててノートを閉じる。そして三織の方を反射的に向く。


「覗かないって、お風呂のことじゃなくて?」


 いつの間にか三織がお風呂から上がってきたみたいだ。僕は覗いてない!

でも、今の感じは……?


「そのノートだよ! お風呂は覗いちゃダメだって流石に分かるでしょ!」


 三織は少し怒ったような――恥ずかしいような感じでそう言った。いや、もちろんお風呂は覗いちゃダメなのはわかってるけど、あの言い方はどう考えても僕にはお風呂だと思っていた。


「なんだい。でも、三織って絵、凄く上手いんだね」


 でも、なんか話は変えたほうがいいかなと思い少し内容を変える。


「恥ずかしいじゃん……」


 お風呂上がりが関係してるのかはわからないけど、三織の顔はほんのりりんごみたいに赤かった。


「三織の将来の夢は漫画家?」


「まあ、一応……」


 やっぱり三織の夢は漫画家。夢とか僕はまだ考えてないから余計に尊敬する。三織が夜空に輝く月とか星のように見える。ここに描かれている絵は上手いし、その夢は意外と近くにあるんじゃないだろうか。


「すごいじゃん! 別に夢なんだから、恥ずかしがる必要はないと思うよ」


「そうなのかもね」


 何とか僕の言葉で三織の機嫌を崩すことは避けられた。三織の夢、支えてあげたい。近くにいる人として。いや、家族として。




「で、ここがいわゆる書斎っていう場所。そんなに本はないけど、お父さんが本読むの好きだったから」


「ほー」


 さっきの部屋案内の続きで今は書斎スペースに来ている。僕を挟むように立つ本棚には合計で60〜80冊くらいの本が並んでいた。まるで小さな図書館のようだった。押入れにもう少しあるけどねと三織が言っていたので実際には100冊くらいあるんだろう。ビジネス書や小説、漫画の描き方の本などが棚に並んでいる。


「まあ、好きなときに世も読んでいいよ」


「うん、読ませてもらう。少し気になったんだけど、ねぇ、何でこれだけパンフレット?」


 僕は本棚の中に一つだけ本ではないパンフレット――旅行のパンフレットがあるのを見つけた。どこかの旅館だろうか……少なくともこの辺ではない気がする。


「これは多分、家族旅行で行った場所……。お父さんが入れたのかな」


 三織がそのパンフレットを取り出した後、そのパンフレットをそっと元あった場所にアルバムをしまうかのように戻す。


「そうなんだ。じゃあ、もうそろそろ寝るね」


「うん。お休みなさい」


「おやすみ」


 僕は少し睡魔が襲ってきたので、三織にそう言って書斎を後にした。


 僕は2階にある自分の部屋に行く。2階にはこの部屋以外にも、大きな部屋が3つほどあるみたいで、階段をのぼってすぐ左手にあるのが三織のお母さんの部屋、その奥が三織、更に奥が僕(三織のお父さん)の部屋。それ以外に、三織の部屋の右手には少し小さな部屋があった。なんだろうなと思いながらも自分の部屋に入る。


 僕の部屋のベランダには名前がわからないけど観葉植物がある。見た限り潤いが保たれていた。きっと三織がきちんといない間も手入れをしてたんだろう。


 そして、僕はベットに横になり、スマホを開いた。ラインのアプリを開く。今日は頼希に――ではなく月さんに用があるのだ。今日交換したばかりの月さんのところをタッチする。


『色々あって三織さんと関わることになったんだけど、三織さんってどういう人か教えてくれない?』


 月さんは三織とも仲がいいと聞いたので、少しでも三織と見えない心の距離を縮めるために、アドバイスが欲しいと思い聞いてみた。すると僕がラインすることを知っていたかのようにすぐに既読が付き、少し経ってから返信が来た。


『えっとね、三織ちゃんはとにかくしっかりしてる人かな。でも、弱いところもあるかな。得意料理はハンバーグでよく紅茶を飲んでるよ(特にミルクティーが好きっぽい)。まあ、何でも頑張っちゃう人だよ!!!(参考までに笑)』


 確かにお風呂上がりにミルクティーを飲んでいたし、ハンバーグは自分の体が喜ぶほど美味しかったし……月さんの言う通りかもしれない。何でも頑張っちゃう人か。漫画を描くのとかも他にも色々と頑張っちゃう人なんだろうな。


 そんな君と……。


 ――これからよろしく! 三織。

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