第5話 そのパズルと夢と【僕side】

「お母さん、お父さん、明日から三織っていう人と暮らすことになったんだ。僕も頑張るから、お母さんもお父さんも頑張ってよ」


 僕は10年ほど前に行った夏祭りで僕と母と父の3人着物姿で映っている写真を見て、母と父に話しかけるかのように言った。その写真の中で母と父は優しく僕を包み込むかのように笑っている。


 そうだ、パズルをしよう。自分の部屋から母の部屋に行き、ベッドの近くに置いてあるパズルのピースを1つ手に取った。母は小さい頃からパズルをするのが好きだったらしく、大人になった今でも時間を見つけてやっているみたいだった。僕は手の感覚に任せてパズルのピースをはめていく。


 このパズルが完成すればどこかの景色が見えてきそうだけど、どこの景色なのかはまだわからない。中央に茶色の大きな建物がくる感じで、周りには山々が広がっていきそうだった。まだ完成には時間がかかりそうだけど、いつか全てのピースをはめていきたい。


 パズルのピースをいくつかはめ終わると僕はそのまま、母のぬくもりがかすかに残るこの部屋で目を閉じていた。



 ――丸い球体が見える。水晶玉のようなもの。その中で僕はゆっくりと緑風りょくふうに吹かれるようにして吸い込まれていく。その球体の中に吸い込まれると、それまで何もなかった景色が一変する。眩しい光で目を開けられない。その光がピタリと時が止まったかのように止まると、5歳くらいの僕の姿が映った。


これは夢?


この日は確か、母と父と僕で旅行をしていた。行き先は栃木県の、日光……。


『あったかいねー』


『うん』


 僕とお母さんは旅館の貸切状態の広々とした露天風呂に入っている。


『久しぶりだね、皆で旅行するの』


『そうだね、世。今回は全部お父さんがプランを考えてくれたの。こういうの苦手なのにお父さん頑張ったんだ』


『へー』


『苦手なことでもやる、そんなお父さんがお母さんは大好きなんだ。だから世も頑張っていいお父さんになってね』


『うん、なる!』


 このとき僕はお母さんと小さな約束をしたんだった。苦手なことも頑張っていいお父さんになるという小さな約束を。まだまだ遠いお父さんになるまでの道のり。お母さん……。お父さん……。


 僕は一体……。

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