二十一組目 〜竜人と竜騎士〜

「はぁっ!!」


 跨がる緋色の雄竜と同じ色の鎧を纏う竜騎士の女が戦場を勇ましく駆けていく。その姿はまるで一つの生き物のようだった。竜の飛翔に合わせて竜騎士の紅き槍が魔物を貫き周囲に鮮血が舞う。それすらも竜騎士を美しく彩る装飾に過ぎない。舞うが如き槍さばきに魔物達は統率を失い一斉に逃げていく。


「やったね。凶暴化した魔物を追い払う任務完了だ」


「いや……まだ油断は出来ん。警戒は怠るな」


「うん」


 剣呑な空気を纏う竜騎士と対照的に無邪気に喜んでいるのは竜騎士の跨がる緋色の竜だ。緋色の竜は人と竜との混血……竜人ドラゴニュートであり竜騎士とは幼い頃から共に過ごす間柄であった。


(今日もかっこいいなあ)


 こっそりと自分に跨がる竜騎士を見上げ竜人は胸をときめかせる。竜人にとって幼馴染みの竜騎士は憧れであり初恋だった。


(好きだなあ)


 お前は人と生きなさい。純粋な竜である父親に言われ竜人は優れた竜騎士を輩出する家に預けられた。それは竜人が竜として生きていくには優しすぎるが故の選択だった。


 母親以外の人間と話したことのなかった竜人はビクビクと震えていたがこれからよろしくと自分と異なる生き物に堂々と握手を求める彼女の強さに惹かれたのが全ての始まりであった。


 それから十年以上の月日を過ごし強い絆で結ばれた二人はパートナーとして共に依頼をこなしている。


「ん〜〜……どうかな? 人に擬態出来てる?」


「はは。角が生えたままだぞ」


「あ、本当だ」


 仕事が終わり酒場に行こうと竜騎士に誘われたため竜人は人間の姿に変身するが变化は苦手なせいか人にはない大きな角が着いていた。うんしょと角を引っ込めようとするが引っ込まず悪戦苦闘しているのを竜騎士は微笑ましそうに見ている。


「笑わないでよ。これでも真剣なのに」


「すまんすまん。だがこれから行く酒場は行きつけの所だろう。多少变化が不自然でもいいんじゃないか」


「それはそうだけど……これから先完全に人の姿に成れるようになる方がいいかなって。多少は魔族も人に受け入れられるようになったけど怖がる人もいるからね」


「確かに……お前が良いやつだということは私はよく知っているが初対面の人間には分からないからな」


「ありがと。だから完全な人への擬態を覚えなくちゃ。君と出来る限りずっと一緒にいたいし」


「っ……」


「……あれ? どうしたの? 顔が赤いよ? もうお酒飲んじゃった?」


 突然頬を赤らめた竜騎士を竜人は心配するが顔を近づけると更にその赤みが増す。


「違う。全くお前はそういう事をサラッと言うのだからタチが悪い。一緒にいたいなんて他のやつに気軽に言うなよ」


「……? キミにしか言わないよ」


「そ、そうか……」


 ならいいが、と嬉しそうにする竜騎士を見て竜人は何か良いことあったのかなとニコニコと笑う。


 そんなちょっぴり甘酸っぱい空気が流れる中、二人は謎の光に包まれたその場から姿を消した。






「なんだこの悪趣味な部屋は……! 全部ピンクじゃないか!」


「わー、凄いねえ。ここまで同じ色なの初めて見た」


 転移の魔法を使われた事に気付いた竜騎士は落ち着いて現状を把握しようと周囲を見渡すが一面ピンクな内装に唖然としていた。竜人は僕はピンクより赤が好きだなあとズレた事を言っている。


 そんな二人の目の前にとある文字が表示された。


『セッ○スしないと出られない部屋』


 と。


「は?」


「ええっ?」


 部屋の内装に対する感想と違い両者同じ反応をする。戸惑いと驚き、そして羞恥だ。


「セッ○スしないとこの部屋から出られないの? なんで?」


「こ、こら。そういう単語を軽々しく言うな」


「あ、ごめんなさい」


「いや、そこまで悪い事ではないんだが……人前では言わないように」


「はーい」


「……全く、子どもなのか大人なのか……」


 口頭での注意に手を上げて返事をする竜人に竜騎士は肩の力を抜き抜いた。お前といると気が抜けるとベッドに腰掛ける。


「もう大人だよ」


「年はそうだな」


「むう。同い年なのにすぐ年上ぶるんだから」


 少しだけ不満そうにしながらも竜人は竜騎士の隣に座る。ベッドがギシリと音を立てて沈み沈黙が訪れた。


「どうしよっか」


「なにがだ」


「ここからどうやって出る? 出口とかなさそうだけど」


「そうだな……壁に向かって火を吹いてくれ。もしかしたら壊れるかもしれない」


「りょーかい」


 すうぅと竜人が大きく息を吸い、思い切り吐き出すと炎のブレスが壁を覆った。しかし壁は燃えることなく焦げ目すら付かない。突き攻撃ならどうかと竜騎士が力の限り壁に攻撃するがびくともしなかった。


「駄目だな。お前のブレスに対する魔法防御力も私のランスに対する物理防御力も強い。かなりの耐久性だ。こんな意味の分からない部屋ではなくもっと他のことに有効活用出来るだろうに」


「そうだよねえ。僕は具体的に思いつかないけど……あ、食料とかあるよ。しばらくはここに留まれそうだけどそれじゃ駄目だよね」


「ああ。いつ食料の供給が無くなるかわからないからな。この部屋から出るには……」


 竜騎士がチラリと例の文字を見て言葉を濁す。普段ハキハキと話す彼女であったがそういった性関連には初であった。


「うーん……そういう事って好きな人同士ですることなんだよね?」


「……少なくとも私はそう思う」


「うん。僕も君とはシたいけど他の人や竜は嫌だなあ」


 世間話をするように告げられた直接的過ぎる好意の言葉に竜騎士は何があっても応戦出来るよう手に持っていたランスを落とす。床とランスがぶつかる音に慌てて落としたランスを拾うが周囲への警戒が出来ないほど心乱れていた。


「は!?」


「やっぱり君次第になるなあ。君は僕とセッ○スしたい?」


「なっ、なななななな何を言ってるんだお前は!」  


「共同作業をするときは相手の意見をちゃんと聞くんだぞって教えてくれたじゃないか」


「それは言ったが! ……わ、私でいいのか? 女性らしさのない硬い体に可愛げのない性格だぞ?」


「筋肉かっこいいよ? それに硬いだけじゃなくてしなやかで柔らかいし性格だって可愛いよ?」


「んなっ!?」


「それにとっても優しい。今まで言い出せなかったけどいい機会だから言っちゃうね。僕さ、ずっと前から君のこと好きだったんだ。初めて会った時から可愛い子だなって思ってたんだけど君が半端者の僕に手を差し伸べてくれたよね。あの時の手の感触と僕を受け入れてくれる優しい眼差しに僕はきっと恋に」


「やめろぉ! しんじゃう! しんじゃうからやめてぇ!」


 竜人の怒涛の愛の言葉に竜騎士は許容キャパシティを超えたのか耳まで真っ赤にして悶絶していた。照れからか制止の言葉まで幼いものになっている。


「えー。しんじゃうくらい嫌だった……?」


「そんなわけないだろう! この鈍感め……わ、私だってお前のことは…………す、すすす好いているとも! こんな形で言い出すことになったのは業腹だが」


「本当!?」


「あ、ああ」


「僕達は両想いってやつなんだね。両想いということは好き合ってるって事で、好き合ってる者同士でするのはセッ○スで……ということは僕達はセッ○スが出来る……?」


「……………まあ……正直私も吝かではないが……」


「わあい!」


 初めてのきっかけがコレなのは度し難いしそれに籍も入れていないのにそういったことをするのは、と言おうとした竜騎士であったが竜人に勢いよく抱きつかれ押し倒される。


「ねえ、キスしていいかな? 好きな人同士がする愛情表現なんだよね? してみたい」


「い、いいけど……」


 竜人の勢いと猛アタックにすっかりしおらしい態度になった竜騎士が恐る恐る頷くと初めての接吻とは思えないほど長く濃密な口づけが贈られた。歯も舌も全てが奪われるような深いキスに竜騎士はビクビクと体を震わせながら竜人の背中に縋り付く。


 それが合図だったのだろう。二人は何度も口づけを交わした後深く愛し合うのだった。








「体、大丈夫……?」


「ああ……大丈夫だ。それよりお前、どこでこんな事を覚えてきたんだ。……まさか父さんが?」


 愛を交わし合った後気遣ってくる竜人に竜騎士は照れくさそうに視線を逸らしながら性知識の出どころを訊ねた。というのも竜騎士は戦闘訓練ばかりに明け暮れていたため性知識に疎く竜人にそういった事を教える事が出来なかったからだ。


「酒場のおじちゃんとか同僚に絶対必要になるから覚えとけって言われて色々と教えてもらったんだ」


 本当に必要なったねえと朗らかに笑う竜人に竜騎士は「周囲にはバレバレだったんだな……」と苦笑する。これからどんな顔をして知り合いに会えばいいのだろうかと悩んでいると竜人が正面から抱きしめてきた。


「改めてこれからよろしくね」


「……ああ。こちらこそ」


 改まった挨拶のような会話に二人は笑い合いながら一眠りした後、部屋をあとにするのだった。





   ◇◇◇





「甘酸っぺえ……これが異種族幼馴染みの破壊力か……っ!!」


『互いに互いが大好きな初々しい二人でしたね』


「一見勇ましい竜騎士の方が主導権握ってるように見えてプライベートではのほほんとした竜人の方が主体なんですな〜。そういうのいいよもっとちょうだい!」


(前から思ってましたけどこの方本当にギャップに弱いな)


 全身で震え喜びを表現する魔族を慣れたように傍観しつつ今回の情報を記録する水晶玉なのであった。



 


 


 

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