十九組目 〜花屋と魔花〜



「おはよう」


「!」


 緑豊かな森の中で抱き合う男と女がいた。男は森から遠く離れた街の花屋であり女は一見普通の人間だがその正体は魔花アルラウネである。花屋が森に花を摘みに来た際に倒れていたアルラウネと出会い血を与えたところ懐かれ絆された花屋は何度も森に足を運ぶようになっていた。


 最初は緑の肌に裸の上半身に蔦や葉を這わせ下半身を花ビラで覆っていた魔物らしい姿をしていたアルラウネだったが血を飲ませる回数が増えるにつれ人間らしい姿へと変貌していった。血の情報から人間の姿を真似るようになったのだ。魔法で作った白いワンピースを纏い頭に美しい花を差し歩く度頭と同じ花を咲かせるその姿は魔物というよりは花の妖精のようだと花屋は思う。


(元々綺麗な娘だったけど……最近は本当に綺麗になったな)


 最初は花が好きだからと善意で弱っていたアルラウネに血を与えていた花屋だったが元気になっても血を与える続けているのは彼女自身に惹かれ逢いたいがため。純粋な善意から不純な好意に変化してしまった事を花屋は自己嫌悪しつつも逢いに行くのを止められなかった。


「♪」


 いつものように腕を差出し血を飲ますとアルラウネが手から色とりどりの鮮やかな花束を出す。魔花であるアルラウネは花を生み出す魔法が使えた。花屋が花を求めているのを知っているためアルラウネは血を貰った後に花屋に花をあげるのがお決まりのやり取りだった。


「ありがとう。いつも綺麗な花をくれて」


「♡」


 アルラウネは礼の言葉に応えるように花屋に抱きつく。アルラウネは人の言葉を話せないためボディーランゲージ……つまり身振り手振りで気持ちを伝えていた。こちらこそいつも血をありがとう、と。


(……駄目だなあ。彼女は純粋な好意を伝えてくれているのに僕は……)


 抱きつかれた体の柔らかさと間近にある麗しい顔に花屋の理性はグラグラと揺れている。情けない男だと自嘲しているとアルラウネは元気がないと勘違いしたのか頬にキスをしてくる。唇の感触と花の香りが更に花屋の心を搔き乱すのだが……アルラウネはニコニコとしている。


(もう逢わない方がいいのかな。彼女もどんどん人らしくなって他の魔物と関わらなくなってきてるみたいだし……)


 何度もそう思いながらも結局はコソコソと逢いに来ている辺り意志が弱いと自分を呆れていた。


「そろそろ帰るよ」


「……」


 花屋がそう言うとアルラウネはしょんぼりと肩を落とし抱擁を解く。それと同時に蔦を纏った手できゅっと花屋の手を握った。その行動は『行かないで』なのか『また来てね』なのか花屋には判断できず「また来るよ」と手を握り返す。するとアルラウネは寂しそうにしながらもコクリと頷いた。その瞬間───。


 辺りが白い光に包まれ花屋とアルラウネの姿が森から消えた。






「ここは…………ってごめん、急に強く抱きしめて」


「///」


 白い光に包まれた際に危険なものだと思った花屋は咄嗟にアルラウネを庇うように抱きしめていた。窮屈そうにしながらも照れた様子のアルラウネから離れ周囲を見渡すとそこは一面ピンクの謎の部屋だった。ベッドや台所、風呂場はあるものの窓も扉もないその部屋の目立つところに『セッ○スしないと出られない部屋』という文字とその文字の下に見たことのない言語が掲げられている。


「えっ」


「✧」


 花屋はその内容に唖然とし、アルラウネは瞳を輝かせた。対照的な反応をする二者である。


「いやそれは……困ったね……………………あれ? なんで嬉しそうな顔してるのかな?」


 爛々と瞳を輝かせるアルラウネに気づいた花屋は後ずさるがやがて壁が彼の後退を阻む。


「♡」


「え、もしかしてあの文字って魔族の言葉なのかな……? 同じ文字が書いてあったとか……?」


 発情しているようにも見えるアルラウネにもしやと問いかけるとアルラウネはコクンと頷く。つまりアルラウネは自分とセッ○スしようとしているのだと気づき花屋は両手をブンブン振って止めようとする。


「だ、駄目だよ! 僕達は友人……だろう!? そういう事は好きな人同士でするもので僕は君の事が好きだけど君はそういう『好き』じゃないだろ……わっ!?」


 花屋が自分との行為を嫌がっているのかと慎重に見極めていたアルラウネだが花屋の「君の事が好き」という言葉を聞いた瞬間、体の蔦を花屋に纏わせ一気に引き寄せた。両想い!?ならいいじゃん!! と言わんばかりの強引さである。


「えっ……なんか甘い匂いが……んっ……」


 花屋の周囲に甘い芳香が漂う。それはアルラウネが発する発情の香りである。つまり媚薬のようなもの。人間が耐えられる程度にまで効果を落としているものの媚薬に耐性のない花屋には一溜まりもなかった。手足を覆う蔦の感触でさえ甘美な快楽に変わってしまっている。


「まっ、まって、そんなっ……あっ……駄目だって……んあっー!!」


 アルラウネが触れるだけで花屋は淫らに声を上げる体になってしまった。そんな事が出来るアルラウネにああ、そういえば彼女は魔物だったんだっけ、と今更な事を花屋は思う。それから為す術もなく花屋はアルラウネの『捕食』されてしまうのだった。






「……」


「♡♡♡♡♡♡」


「あはは……すっかり美味しくいただかれちゃったなあ……」


 アルラウネにあらゆるものを搾り取られ脱力する花屋であったが嬉しそうに頬ずりしてくるアルラウネを見たら愛しさが込み上げてくる。人と魔物という今までの葛藤が全て吹き飛んでしまっていた。


「こうして森に通うのも好きだけど……もう離れたくないや。君がよかったら一緒に暮らさないかい?」


「!!」


 花屋の提案にアルラウネは首が取れてしまうのではないかと思う勢いで何度も頷きその提案を受け入れた。


 それから花屋とアルラウネは結婚し『花が花を売る花屋』として街に愛される店となったのだった。






   ◇◇◇






「男の触手プレイ……それはそれで」


『何でもいいんですね本当に』


「愛故のプレイなので」


『両想いでなかったら大惨事でしたがまあそうですね……』


「それにしてもあそこまで人間に擬態するとは……本当にあの花屋の男が好きなんですなあ。街に住むようだし」


『言葉がなくとも通じ合う事が出来る……素晴らしい事だと思います』


「それな!! あ〜尊いんじゃ〜。 まあその手段が若干手荒だったけど丸く収まればヨシ!!」


 誰のせいですか誰の、と出かかった言葉を水晶玉は飲み込む。


(……人間に擬態……それが出来たら私ももっとお役に立てるでしょうか)


 まるで人そのものに変化したアルラウネを横目に見ながら水晶玉は密かにそんな事を思うのだった。




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