1章 異能者との戦い

リゲル編

第12話 呪い

 あの街を離れ、何日か野宿をしながら茜は轍の上を時折外れながら、どこへともなく歩いていた。

 思い返し続ける、ハーベイの姿と燃えていく小屋と少女。

 「今まで、こんな事無かったのに・・」

 陽の光が差す轍の上で立ち止まって頭を強く掻き、離した手から鼻につんとくる籠ったような臭いに顔を逸らして、彼女が再び歩き出そうとした時だった。

 突然、胸を締め付けるような痛みが走り、過呼吸になって意識がもうろうとし始める。実は街を離れて歩いていく内に、このような痛みが時折訪れたのだが、今回の痛みは今までよりも大きかった。

 「・・もしかして・・・」

 この世界に来る前にノチェロが言った、呪い。転生した異能者を倒さなければ、呪いによって本当に死ぬ呪い。

 他に原因が考えられない茜は、それでも息を大きく吸って吐き、目の前に伸びる轍を睨みつける。

 「ざけんなよ・・・死んで・・たまるか・・!」

 茜は一歩、また一歩と、重たい足を前へと進めた。



 「そっち行ったぞ!」

 しばらく進んでいた時だった。右のほうにある丘の上から若い男の緊迫した声が、轍にいる茜にもしっかり聞こえる程の声量で轟く。

 「オッケー!逃がさないよ!」

 一体何事かと、朦朧とする視界をしゃんとさせて声のする方に顔をのそっと向けると、剣を持った青年と女性が、フードを被った男を追いかけて轍の方に走っていた。

 「ど、どけぇっ!」

 フードの男に怒鳴られても、茜には彼の言葉に従う義理など無く、動かない彼女に男は大きく舌打ちを打つ。

 男は素早く両手を広げ、唸り声を上げ始める。すると、彼の腕から獣のような毛と鋭い爪が生える。

 「そこの君っ!そいつから離れて!」

 女性の必死な叫びも空しく、茜はフードの男とぶつかる手前でだらりと膝をつく。

 茜を爪で引き裂こうとしていたフードの男は、彼女が膝をついたので避けようとしたのだが、鈍い音と共に体に走る痛みのあまり、気が付いたら倒れてしまった。



 「ツイてんじゃん?」

 フードの男が最後に聞いたのは、歓喜に震える茜の声。最後に見たのは、彼女が手に持ったナイフが自分をめった刺しにする光景だった。

 彼を殺した瞬間、今まで体を蝕んでいた痛みが嘘のようにふっと消えて、茜は返り血がべっとり付いたのも気にしないで、空を見上げて気持ちよさそうに深呼吸した。

 「君・・?一体・・」

 先程まで勢いよく男を追っていた2人も、茜の狂気じみた行動に足を止めるが、青年は何か思うところがあったのか、剣を鞘に収めて空を眺める茜に近付く。

 「君、異能者かい?」

 ようやく呪いによる痛みが無くなったのに、またも厄介ごとに巻き込まれそうな予感に、茜は手に持ったナイフを青年に向けて立ち上がる。

 「・・なるほど。この世界、アドニスには来たばかりみたいだね」

 「・・・・」

 優しく微笑んで言ってみても、茜の警戒心は解けない。隣にいる女性は、不安げに剣を構えたままだ。

 「俺たちもそう、魔王を倒すために呼ばれた異能者なんだ。そして今は、悪い異能者をとっちめてこの世界を守る、アドニス復興隊さ!」

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