ベランダの横に設置してある小さな部屋には、洗濯室であり、洗濯機と洗剤などが置いてある。棚をあさるが、それ用のものが見つからない。


 二階に降り、リビングに向かう。


「なぁ、栞。臭い消しのスプレーって、どこに置いてあるんだっけ?」


「あれね。確か洗面所にあると思うよ」


「分かった。ありがとう」


 俺はそのまま洗面所に向かう。


「あっ! 今は!」


 栞が何を言おうとしたのか、俺はそれを聞かず、訊き返そうともしなかった。


 そして、洗面所の扉を開ける。


「ええと、確か……。——えっ⁉」


 俺は、言葉を失う。


 なぜかというと、そこには生まれたての姿をした少女が、タオルで濡れた髪を拭いていたからである。


「あ、あれ?」


 俺はガン見というか、上から下まで全て見てしまった。


「あちゃ~。遅かったかぁ……」


 栞がこっちまでやってきて、額に手を当てながら、はぁ、とため息を漏らした。


「い、いや……。これはですね。何と言いますか、事故です、事故! 覗くつもりはなかったんです。ごめんなさい!」


 俺は反射的に言い訳をしながら謝った。


「きゃっ!」


 少女は、タオルで自分の体を隠そうとするが、タオルが小さすぎて、隠れていない。


「きゃっ?」


 俺は、彼女の言葉に首を傾げる。


「きゃぁああああああああ! 変態っ‼」


 と、言いながら、俺の腹の位置をピンポイントに思いっきり右足で蹴った。


「ぐへっ!」


 俺はそのまま壁に激突し、強く頭を打つ。


「お兄ちゃん……」


 栞は、俺の方を見下しながら、それ以上、何も言わなかった。


 これはご褒美なのか、それとも、地獄だったのか、考えるのも面倒だった。


 ラブコメの神様は、どうやら、俺には厳しいらしい。


「あいたた……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る