Ⅴ
栞の何が言いたいのか、全く理解できない。
「それなら別にいいけど……。葵さん、この男、さっさと捨てて、別の男を見つけた方がいいよ。これ、私からのおすすめ」
「あははは……。考えておきます……」
葵は、苦笑いしながら言った。
それからは、普通に話をしながら、夕方まで葵は俺の家にいた。
「本当にいいのか?」
「はい。さすがにご飯までご馳走になったら悪いですし、今日は帰りますね」
「そうか……。俺は食べて言ってもよかったんだけどな……」
「すみません。こんな時間まで、お邪魔してしまって……」
「気にするな。俺も久しぶりに会えたから構わねぇーよ」
「それじゃあ、また、月曜日、学校で……」
「ああ、またな」
葵はそのままドアを開いて、帰ってしまった。一人、玄関でたったまま、ぼーっとしていた俺は、ドアの鍵を閉め、再びリビングに戻った。
「栞、どうかしたのか?」
ソファーに座って、ぐったりとした栞を見た俺は、隣に座る。
「え? あー、うん。まぁね。何というか、あの人、面白い人だよね。お兄ちゃんには、もったいないくらいだよ」
「そうかい。人っていうのは、案外分からないもんだぞ」
「そりゃあ、お兄ちゃんは昔から変わり者だから、今更って、思うけど……」
「はいはい。お前の言いたいことは分かったよ」
「あー、それ、適当に言ってない? お兄ちゃん、あの人の前で、ずーっと緊張してたでしょ」
「はぁ⁉ なんで、俺が⁉ べ、別にしてねーし……」
「いいや、顔に出てたよ。あほ面だった」
栞は笑って言う。
「で? お兄ちゃんは、なんで、あの人と、先週、デートしてたの?」
「え……?」
いきなり声のトーンを変えた栞が、俺の方を真剣な眼差しで見る。
「お、俺は……別に、デートなんか……」
俺は誤魔化そうと必死になる。
「うそ……」
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