栞の何が言いたいのか、全く理解できない。


「それなら別にいいけど……。葵さん、この男、さっさと捨てて、別の男を見つけた方がいいよ。これ、私からのおすすめ」


「あははは……。考えておきます……」


 葵は、苦笑いしながら言った。


 それからは、普通に話をしながら、夕方まで葵は俺の家にいた。


「本当にいいのか?」


「はい。さすがにご飯までご馳走になったら悪いですし、今日は帰りますね」


「そうか……。俺は食べて言ってもよかったんだけどな……」


「すみません。こんな時間まで、お邪魔してしまって……」


「気にするな。俺も久しぶりに会えたから構わねぇーよ」


「それじゃあ、また、月曜日、学校で……」


「ああ、またな」


 葵はそのままドアを開いて、帰ってしまった。一人、玄関でたったまま、ぼーっとしていた俺は、ドアの鍵を閉め、再びリビングに戻った。


「栞、どうかしたのか?」


 ソファーに座って、ぐったりとした栞を見た俺は、隣に座る。


「え? あー、うん。まぁね。何というか、あの人、面白い人だよね。お兄ちゃんには、もったいないくらいだよ」


「そうかい。人っていうのは、案外分からないもんだぞ」


「そりゃあ、お兄ちゃんは昔から変わり者だから、今更って、思うけど……」


「はいはい。お前の言いたいことは分かったよ」


「あー、それ、適当に言ってない? お兄ちゃん、あの人の前で、ずーっと緊張してたでしょ」


「はぁ⁉ なんで、俺が⁉ べ、別にしてねーし……」


「いいや、顔に出てたよ。あほ面だった」


 栞は笑って言う。




「で? お兄ちゃんは、なんで、あの人と、先週、デートしてたの?」




「え……?」


 いきなり声のトーンを変えた栞が、俺の方を真剣な眼差しで見る。


「お、俺は……別に、デートなんか……」


 俺は誤魔化そうと必死になる。


「うそ……」

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