第6章  この手の中にあるもの

 あーつい……。


 俺が高熱を出してから約一週間が経とうとしていた。


 つまりは、学校を五日ほど休んでいたことになる。今日は土曜日。


 この一週間で、まともに体の自由が利かなかった俺は、家から外へ一歩も出ていない。それどころか、まともな食事もしていないのだ。目が覚めれば、トイレに行くか、風呂に入るだけで、後は、部屋の中で引きこもっている。


 ずっと、部屋に引きこもっていると、外の様子が気になり始めたり、久々に学校に行くのも不安になり始めた。


 栞は平日の間、中学校に通っているため、夕方以降しか介護をしてもらえず、両親は共働きのため、家にいない。家には現在、俺と栞の二人だけである。


 こうして、暇をもてあそぶのは、初めてであり、何をしたらいいのか分からない。


 本来、病人は安静にしておくのだろうが、おそらく、ほとんどは家の中で、ゲームをしたり、テレビを見たり、快適な生活をしているはずだ。子供なら当たり前だろう。


 俺は、部屋にあるテレビを点けても、この時間帯はニュース番組か、ドラマの再放送しかやっていないのを知っている。他には、タブレットでネットテレビを見るくらいだ。ゲームをする体力はない。


 気晴らしに、タブレットの電源を入れて、音楽を聴きながら、天井を見上げる。


 人間、何もせずにこうしていると、次第に何かしたくなるものだ。


 欲求不満を満たすためのものがない。暇だ、暇すぎる。


「あーいーうーえーおー」


 と、試しに声を出してみるが、なぜか、モヤモヤが治まらない。


 時間が経てば、時間が解決してくれるだろうなんて、真っ平な嘘である。


 気分を変えるために部屋を出て、リビングに行くことにした。


 リビングに入ると、栞が、お菓子を食べながら、テレビを見ていた。


「ほえ? お兄ちゃん、もう、体の方はいいの?」


「ああ、おかげさまで……来週からは学校も行くし、安心しろ」


「そう、それならよかったけど……。それにしても長かったね」


「何が?」


「ん? お兄ちゃんの病気だよ。普通は、熱も二、三日くらいしたら治っているのに、あんなに長引くなんて、思わなかったから……」


 栞は心配そうにこちらを見る。

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