XIII

 それに気づいた犬伏が、俺に尋ねる。


「そうだな。これでようやくひと段落と思うと、なんだか、今まで平凡な暮らしをしていた俺の暮らしが嘘みたいに感じてな……。ちょっと、後ろめたい感じがするんだよ。俺はまだ、お前たちが、本当に何者かも分からないし、天使とか、世界とか、時々、どうでもいいと思ってしまう自分がいる」


「………」


 犬伏は黙ったまま、俺の話を聞いてくれる。


「でも、少し、俺も変わらないといけないと思う時があるんだ。人間、少しでも変化をしないと変われない。それは分かっている。扉の前に立った人間が、その扉を開くのか、開かないのかだけで、運命という名は大きく変わっていくようなものだろ? この先、俺がどういう人生を歩むのか知らない。もちろん、葵や富山、犬伏だって、どういう結末が待っているのかもわからない。それは確かに、未来人であるお前たちは、俺達の人生をある程度、知っているのかもしれないが、それだって、過程にしかすぎないと、俺は思っている」


 俺は、タクシーの中で、長々と語った。


「そうですね。あなたの考えは分かるつもりです。最近になって、僕も色々と知らない事実が出てきましたから、ある意味、あなたの知っている未来が、どう転ぶのか、この僕でも想像が出来なくなりました。この先、何があろうと、それを知ることが、真実なのでしょう。真実とは、一つしかありません。でも、その真実にたどり着くまでには、多くの情報が飛び交い、その中からたった一つを選び抜かなければならない。いつかは、僕も、あなたも、ゴールにたどり着くことになるでしょう。それが、同じゴールなのか、違うゴールなのかは、僕達、人間は、それを用意することはできない。思い悩むことは、人によってはマイナスになるのかもしれませんが、それがプラスになれば、この先、いい方向に向くのかもしれませんね」


 犬伏は、俺の話を聞いたうえで、そう言ってくれた。


 まぁ、こいつらしいと言えば、こいつらしいのだが、その爽やかな表情で言われると、ちょっと、ガックシとくる。


 タクシーは、俺の家の近くまで来ており、ようやく家に帰ることが出来た。


 タクシーが、家の前に止まると、後ろのドアが開き、犬伏に肩を預けながら、俺は家の中に入った。


「ただいま……」


「あのっ! 誰か、いませんか?」


 犬伏が声を上げて呼びかける。


「おかしいですねぇ……。僕が知る限り、確か、あなたには妹がいるはずなのですが……」


「お前、人の家庭図まで知っているのかよ……。いつか、ストーカー罪とかで、つかまるんじゃないのか?」

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