数十秒、この大勢を保ったまま、私は辻中さんの温もりを感じ取った。


「あ、あの……。私達、一体、何をしているのでしょうか?」


 私達?


 私はゆっくりと体を離して、辻中さんの方を見た。彼女は、少し困った顔をして、照れながら苦笑いをしていた。その時、私は気づいた。


「えっ⁉ あっ! ご、ごめんなさい。すぐに離れますから!」


 すぐに手を離し、距離を置こうとする私は彼女の顔を見ることができない。だが、辻中さんは、離れようとする私を離さず、私の体を抱きしめる。


「別に嫌というわけではありませんよ。何があったのかは知りませんが、こうしていると何だか落ち着きますね」


「は、はい……」


 私の顔は再び真っ赤になり、それ以降は言葉が出なかった。


 こうして抱きついている所を誰かに見られたくないが、もう少しだけ、このままでいたい。


 しばらくして、辻中さんから離れると、私は顔を下に向けたまま、頭が上がらない。


「落ち着きましたか?」


 辻中さんは、未だに緊張だらけの私に話しかける。


「は、はい。あ、ありがとうございます。すみません、色々と迷惑をかけて……」


 謝っていることしかしていない私に辻中さんは、クスッと笑った。


「なんだか、みんなでいる時より二人でいる時、口調が変わりますね」


「そ、そうですか? あはは……。緊張しているからですかね……。二人っきりだといつもの調子が出ないと言いますか……」


 やはり、辻中さんの前だといつもの自分じゃなくなるみたいだ。


「でも、私達は……その……友達なんですし、いつも通りでかまいませんよ。私は、富山さんの事、好きですよ」


 そう言ってくれる辻中さんは、嘘を言っているように見えない。


「玲奈……」


「はい?」


「私の事は玲奈と呼んでください。上の呼び名でなく、名前の方で……」


 キョトンとする辻中さんは、それを聞いて、再び笑った。


「分かりました、玲奈。私の事も葵と呼んでください」


「うん、分かったわ、葵」


 私と辻中さん、いや、葵との距離が縮まったような気がした。でも、これ以上は距離を縮めてはいけないような気もした。この幸せな時間を壊したくはない。そう思う自分がいたからである。一緒にいられる時間は、そう長くはない。

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