Ⅸ
「あ、そうだったの? 別に大丈夫だけど……」
びっくりしたぁ~。でも、なんでアリエスさんが……何の用なんだろう?
「一度変わりますので、後の事は、アリエスさんから聞いてください」
そう言い残して、辻中さんは、目を閉じた。
簡単に入れ替われるって、本当に天使化の暴走は、一体どうなっているのだろうか? そっちの方が気になってしょうがないのだけれど……。
それはそうと、辻中さんに入れ替わったアリエスさんが、私だけに用があるのは、何なのだろうか。ええと、重要な案件よね。たぶん……。
『ありがとうね、葵。あなたは少し眠っていなさい』
どうやら、目の前にいるのは、本当にアリエスさんらしい。雰囲気からして違う。
『ごめんなさいね。あなたと二人っきりで、少し話をしたいと思っていたの。ああ、そんなに警戒しなくていいわ。葵には、少し眠ってもらっているから、今からあなたとの話は、誰にも聞かれていないわ。さて、あなたに訊きたかった事があるの』
「は、はい! なんでしょうか?」
じーっと私の方を見つめてくるアリエスさん。そんなに見つめられると、緊張が増していく。
『あなた、この時代の人間じゃないでしょ?』
「はい?」
唐突に言われた私は、ちょっと焦りを見せる。
これは、私に探りを入れているのだろうか。もし、それがそうだとしたら犬伏にも違う形で探りを入れてくるはず。これは慎重に答える必要がある。でも、天使がそれを聞いて、何を思うの。分からない。全く、先の展開が読めない。
『別にそうだとしても私がどうこうしようと思わないわ。あなたには、葵と似た雰囲気が感じられたから聞いただけよ。もし、違ったらごめんなさいね』
ああ、そういう事だったのか。緊張して損した。でも、それでも私がここにいる理由は、変わらない。嘘をつき通すくらいの覚悟がなければ、ここにはいない。
「私は富山玲奈です。確かにこの時代の人間ではないことは、さすがに隠すことはできないでしょう。でも、もう一つの答えはノーです」
そう私が答えると、アリエスさんは微笑み、優しい顔をして、いきなり私をギュッと暖かく抱きしめた。
その温もりが、いつ以来だっただろうか。私の心がホッとする。
『そう。あなたの事情は分かったわ。でもね、いつか、話す時が来たら私ではなく、その人に伝えなさい。あなたの思いは、きっと届くわよ』
「はい……」
私もいつの間にか、アリエスさんをギュッと抱きしめていた。
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