確かにこの口調、この雰囲気は間違いなく天使、そのものだ。


「早速ではございますが、お聞きしてもよろしいでしょうか? ええと……天使さん?」


 どうやら犬伏は、天使についての呼び名に対して、困惑しているらしい。


『ああ、そうだったわね。まだ、私の名前を紹介していなかった。私はアリエスよ』


「アリエス……。分かりました。それではアリエスさん。どうしてあなたは意思を持っているのですか? 僕の知っている範囲では、天使が意思を持っているなんて聞いたことがありません。ちょっと、不思議なんですよね」


『そうね。私達、天使は、その宿主の中に存在して、滅多に姿を現さないわ。それに天使は、人を信じないものよ。人の前に出てくること自体、珍しいと思いなさい』


 アリエスは、偉そうに言った。


「なるほど。それでアリエスさんは、もし、天使化の暴走が抑えられたときは、辻中さんの中で生き続けるのでしょうか?」


『そうよ。さすがに今の私では、天使化の暴走は抑えることができない。でも、陣平がこの子についているならおそらくは大丈夫よ』


 アリエスは、葵の体で俺の左腕を組んで、体を密着させる。


「おい、葵の体で俺に押し付けるな。後で彼女に怒られるだろ?」


 嫌がる俺を逃しはしないアリエスは、しっかりと腕を固定させている。


『そう言わないの。これも天使化の暴走を抑えるための一つよ。あなた、葵を幸せにするんでしょ? 断るなんてないわよね?』


 俺の方を見て微笑むアリエスは、どこか殺気を放っているようだった。


「ああ、そうだな。こ、断る理由なんてないよなぁ……。うん。ないな。絶対にない」


 これは逃げ場のない罠に引っ掛かった気分だ。これ、他の天使が出てきたらどうなるんだ?


 そう思う俺は、天井を見上げた。


「さて、アリエスさんが、天使化の暴走を抑えた後も存在するとなると、他の天使たちもそういう例がある可能性が高いですね。アリエスさんが知っている中で後、どれくらいの天使が存在するのでしょうか?」


 犬伏は続けて質問をぶつける。自分の仮説をアリエスの話で付け加えながら考えているのだろう。真実が、分からない以上、犬伏たちも容易に動くことができない。


『私が知っているのは、私を含めて十二体。最低でも十二人の天使化の暴走を抑えないといけないことになるわね。私もまだ会ったことはないのだけど、数は間違ってないと思うわ』


 マジかよ。葵を入れて、十二人も攻略しないといけないのか?


 果たして、自分はうまくやって行けるのだろうか、先が思いやられる一方だった。


「十二体。なぜ、天使が十二体……。そして、最初に現れた天使が、アリエス。いや、天使なのに、アリエスはおかしいのでは……。僕の仮説が正しければ……。なるほど……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る