「そりゃあ、話くらいはするな。でも、辻中がどの委員になるかは分からないだろ? それをどうしろと? 直接本人に聞くとか? それはそれで、あんまりではないか? 何を企んでいるのか、怪しまれるんじゃないか?」


 犬伏の案はいいが、それまでにいたるまでの順序がどうもうまくいかない気がした。


「そういうと思っていましたよ。こういう時こそ、富山さんの出番って訳です。ですよね、富山さん。あなたが辻中さんと話をしながらそのはずみで聞いてみる。女子同士ならそれなりに怪しまれないので、大丈夫だと思います。もし、これがダメだった場合は、最後の手段を使うしかないですけどね……」


 その最後の手段というのを最初からやれよと思う俺であったが、犬伏たちがサポートしてくれるのは知っていたし、まぁ、こういう事は、女子の富山に任せるのが一番だろうと思った。


「富山は、それでいいのか? その……概ね、一人任せになってしまうけど」


「大丈夫よ。それくらい、干渉しても問題ないし、攻略するのは坂田さん自身だし、それに、一度、彼女と話をしてみたかったから」


「そ、そうか。それじゃあ、お願いするとして、その後はどうすればいいんだ?」


 再び、犬伏の方を見る。


「それからはあなたの仕事ですよ。何を話すかによって、選択肢が増えます。我々は、その選択肢がない。主人公とは違い、モブキャラなのですからメインヒロインを落とす選択肢など与えられるわけではありません。違いますか?」


 そう言われてみれば、選択肢が増える恋愛ゲームは、その選択を選ぶと、ルートが別れる。それと同じように真剣に考えて、言葉を選ばなければ、バットエンド。でも、心理戦といったこの状況下で、俺の知識が果たして役に立つのだろうか。


「それにアドバイスくらいは、僕たちもメールや電話で送りますし大丈夫です。女の子を救いたい。それさえあれば大丈夫なんですよ」


 俺達は作戦会議が終わり、それと同時に昼食も食べ終える。


「さぁ、そろそろ教室に戻るとしましょうか。こっちから仕掛けていきましょう。富山さん、後の事はよろしくお願いします」


「ええ、分かったわ。任せておいて。でも、二人とも、私たちの話から耳だけでも聞き逃さないようにしておいてね」


「ああ……」


「分かりました」


 俺と犬伏は返事をして、俺たち三人は部室を後にした。


 教室に戻ると、それぞれの席につき、俺と犬伏は、富山の行動を見て見ぬふりをするかのように周囲から気づかれずに富山と辻中の初対面の話を聞くことにした。


 富山は、自分の席に座って、本を読んでいる辻中に近づいていった。

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