Ⅱ
そこには俺よりも背は低く、髪は肩の位置まで、口元には八重歯が見える。かわいらしい少女が、そこにいた。
「えーっと……」
「さっき、私の名前を呼びましたよね? 辻中葵って……」
少し首を傾げる少女は、俺の方を見て言った。おそらく、この少女が辻中葵って少女なのだろう。まさか、朝っぱらから合うとは思ってはいなかった。というよりも教室で会うから変わらないか。それにしても昨日、犬伏や富山が話していた通り、性格は……うん、そうだな。可愛いけど……。
「あ、ああ……。その……俺、同じクラスの坂田陣平。よ、よろしくな? つ、辻中……」
「おはようございます。私は辻中葵です。……あの、私の顔に何かついていますか?」
俺は辻中の様子を窺っていたのか。気になった辻中が、俺にそう言った。
「あ、いや、なんでもない。なんでも……。それを言うなら辻中はどうしたんだ? 俺をじっと見て、何かあったのか?」
「いえ、何でもありません。急ぎましょう。遅刻してしまいますよ」
辻中は急いでシューズに履き替えると、教室へと向かってしまった。
「なぁ、犬伏」
「なんでしょうか、坂田さん? 何かありましたか?」
「あれが辻中なんだよな? ちょっと、変じゃなかったか? 様子が……」
「そうですね。あの様子でしたらおそらく、天使化の進行が進んでいるのかもしれません。まだ、僕たちが気づかないとするなら、おそらく、症状は軽い方でしょう」
「そうか。それならいいんだが……。天使化が進んでいる様子って、どうやったら見分けられるんだ? ちょっとした仕草でもわかるんだろ?」
俺は犬伏に訊くが、犬伏は黙ったまま考え込んでしまう。
「仕草とかは分かりませんが、様子が非常におかしい。呼吸が荒い、立ってすらいられないのが天使化の発症ですからね。天使化の暴走は、すごいらしいです。早めに蹴りをつけておきましょう。その方がいい。我々も初めてですから対応が遅れたら面倒ですからね」
「そうだな。まぁ、やるとしますか。面倒だが……」
俺は犬伏と歩きながら教室に向かった。
教室に入ると、辻中は俺の席から近い席に座っていた。そう言えば、クラスメイトの席なんて覚えていなかったな。犬伏ですら知らなかったのに、俺より後ろの席に座ってやがる。
辺りを見渡すと、富山は、クラスメイト達と話をしているし、ターゲットの辻中は、一時限目の授業の準備をしていた。
次の授業の準備をする、これは当たり前のことだが、あいつ、友達でもいるのか? ずっと観察しているが、女子ならだれかと話くらいしているだろ? まぁ、知らんけど。
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