95.同じ印象
「スライグさん、あまりそんな風に考えてはいけませんよ」
「え?」
そこで、私はそんなことを呟いていた。
それは、自分でもほとんど無意識の呟きだった。だから、自分でも少し驚いてしまう。
だが、どうしてそんなことを言ったのかはなんとなくわかる。恐らく、私は彼のことをかつての自分と重ねているのだろう。
「なんでもかんでも背負うというのは、大変なことです。そんなことをしていると、いつか糸が切れてしまうんです。人は追い詰められると、本当に些細なことでそうなるんです」
「……それは」
「ええ、私の経験則です」
私は、かつてズウェール王国の聖女だった。その時は、グーゼス様から与えられる莫大な仕事をなんとかこなしてきたのだ。
それは、グーゼス様の一言によって限界を迎えた。糸が切れてしまったのである。
そうして、私は全てを投げ出してアルヴェルド王国に逃げてきた。彼には、そんな風になって欲しくないのだ。
「経験則……そうですか」
私の言葉に対して、スライグさんはゆっくりと頷いた。
私に何があったかは、彼も大体知っているだろう。そのため、私の言いたいことは伝わっているはずだ。
「……時々、ルルメアさんがとても大きく見えます」
「え? そうですか?」
「ええ、失礼かもしれませんが、大人びているというか、どこか達観しているというか……」
「それは……」
スライグさんの感想に、私は思わず言葉を詰まらせてしまう。
それは、いつかナーゼスさんにも言われたことだ。
私が大人びている。それが多くの人から私に対する認識のようだ。
「……人生経験という意味では、私は他の人よりも積んでいるのかもしれません。聖女でしたからね……」
「そうですよね……普通の人よりも濃い体験をしているのですから、それは当たり前のことなのですよね」
「まあ、私としては複雑な心境ですけど……」
「それは……」
私の言葉に、今度はスライグさんが言葉を詰まらせた。
大人びている。それは、褒め言葉なのかもしれない。
だが、私としては中々複雑な所だ。素直に褒め言葉として受け取れないのである。
「ナーゼスさんにも、同じことを言われたんですよね……」
「ナーゼスが? なるほど……考えていることは、同じということですか」
「ええ、そうみたいです」
私とスライグさんは、笑い合っていた。
彼とセレリアさんが来てくれて、本当に良かった。このように笑えるのは、彼らのおかげだ。
そんな話をしながら、私達はしばらく過ごすのだった。
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