82.同僚の正体

「さて、それではここにいる騎士達を紹介していきましょうか。恐らく、皆こちらが来たのはわかっているはずですし……」

「マルギアス、それは少し待っていただけますか?」

「え?」


 そこで、私達の前に一人の男性が現れた。

 その男性には、見覚えがある。彼は、ドルギアさんの同僚さんだ。

 だが、私はもう既に知っている。彼の正体は、恐らくこの国でも有数の権力者だ。


「お久し振りですね、ルルメアさん」

「ええ……といっても、それ程久し振りでもないような気がしますけど」

「ああ、確かにそうですね……最近は、色々とあり過ぎて、なんだかあなたとあの定食屋で会ったのが、遠い昔のように思えます」

「ええ、それは私も同じです」


 男性と会ったのは、つい最近のことである。だが、彼の言う通り、それは遠い昔のことのようだ。

 彼と最初に会った時は、こんなことになるなんてまったく思っていなかった。異国の元聖女という複雑な立場ではあったが、こんな風に戦いに巻き込まれるなんて、考えてもいなかったことである。


「あ、あなた様が、どうしてここに……」

「マルギアス、ここまでの護衛ご苦労でした。申し訳ありませんが、少し下がっていてください。僕は、彼女と話がありますから」

「は、はい……失礼します」


 男性の一声で、マルギアスさんはその場を去って行った。それだけ、彼の発言には力があるということだろう。

 この様子だけなら、騎士団において、それなりに地位がある人物とも考えられる。だが、ドルギアさんの話も合わせると、彼はもっと地位が上の人物であるはずだ。


「さて、あなたが何者なのか、そろそろ教えていただけませんか?」

「そういう質問をするということは、ある程度見当がついているのではありませんか?」

「ええ、そうですね……あなたは、この国の王族なんですか?」

「ええ、そうです。僕は、この国の第三王子ケルディスといいます」


 ケルディス様の言葉を聞いても、私はそれ程驚かなかった。それが、予想していた通りのことだったからだ。

 彼は、このアルヴェルド王国の第三王子であるらしい。第三王子といえば、奇しくもグーゼス様と同じ地位だ。

 ただ、彼と目の前の男性は大きく違うだろう。その雰囲気から、既にそれが読み取れる。


「あなたとは、王城でゆっくりと話したかった所ですが、そうもいかなくなってしまいました。事態は思った以上に、大変なことになっているようですね?」

「ええ、そうですね。本当に、大変なことになっています」

「ふむ……今すぐ話せますか?」

「ええ、問題ありません」


 私は、ケルディス様の言葉にゆっくりと頷いた。

 疲れているが、それでも彼とは話すべきだと思った。どうせ、この後はそれなりに休めると思うので、それ程問題はないだろう。

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