76.現れない首謀者

「さ、流石ですね……あの炎に続いて、氷とは……」

「まあ、元聖女ですからね……ただ、マルギアスさん、まだ安心することはできないんです」

「ええ、わかっています。首謀者が現れるかもしれないんですよね?」


 グーゼス様の体は、完全に凍っている。そのため、彼は無力化できたといえるだろう。

 だが、前回も彼を追い詰めることには成功した。その後に現れたルミーネによって、それが覆されたのだ。

 今回だって、彼女が現れる可能性がある。そう思いながら、私は周囲を警戒する。どこからか、彼女が現れるかもしれないと。

 特に、グーゼス様の体は気にしていた。前回のように氷の状態を崩されないように、魔力で結界を張っているのだ。


「……現れませんね」

「そうですね……」


 しかし、彼女は中々現れなかった。まさか、今回は現れないつもりなのだろうか。

 その可能性もない訳ではない。彼女が、グーゼス様のことをどれくらい大切に思っているか。それによって、彼女がここに来るかどうかは変わってくるだろう。


「このまま現れなければ、騎士の増援が来ます。そうなれば、流石にあちらも動けないはずです」

「ええ、私もそう思います。だからこそ、現れると思うんですけど……」

「そうですよね……」


 私とマルギアスさんは、周囲を見渡してみる。だが、彼女の姿も気配も感じない。

 これ程待っても来ないということは、安心してもいいのだろうか。いや、それは流石に早計だろう。騎士の増援が来るまでは、待った方がいい。


「……うん?」

「ルルメアさん? どうかしましたか?」

「いえ……何か音が聞こえるような……」

「音?」


 そこで、私はあることに気づいた。何かの音が聞こえてくるのだ。

 それは、グーゼス様の方から聞こえているような気がする。まるで、鼓動のようなその音に、私は嫌な汗をかく。


「……マルギアスさん! グーゼス様から離れてください!」

「……わかりました!」


 私の言葉に、マルギアスさんは特に何も言い返すことなく従ってくれた。

 それは、幸いである。もしも従わなければ、もっと厄介なことになっていただろう。


「こ、これは……!?」

「やはり……!」


 次の瞬間、グーゼス様の体が光り輝いた。

 その彼の体は轟音とともに爆発する。大きな爆風が、辺り一面に広がっていく。その煽りに、私もマルギアスさんも地面に転がっていく。


「うぐっ……」

「うっ……」


 私達は、しばらく地面を転がった後、グーゼス様の方を見た。

 すると、そこには大きなクレーターができていた。それは、彼が爆発したことによってできたものなのだろう。

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