20:変わる景色。

第96話 会長の悩み。

 数分前、廊下を歩いていた俺たちに突然声をかける会長が深刻な顔をしていた。その顔を見ると、なんとなく後夜祭のことを思い出してしまうから。一応、会長が恥ずかしがる…後夜祭のことは言わないことにした。


 あの会長が直接声をかけるのは珍しいことだった。

 いつもいやらしい目で会長に見られていたから、人がいるところではあんまり声をかけない。


「ちょっと、いいかな?二人」


 いきなり相談したいことがあるって言い出す会長に、俺と加藤がびっくりしてしまう。それから誰もいない生徒会室に来て、俺たちは会長の悩みを聞くことになった。


「花岡は?」

「……」


 なぜかこの3人で話したい雰囲気を出してるから、茜を含めた女子たちには何も言わなかった。当然、花岡のことだと…俺たちはその顔を見た時に気づいていた。


「だから…、君たちに聞きたいことがあって…」


 パチパチパチパチ…。


「なんで拍手するんだ!神里くん」

「いや…、なんとなくそんな雰囲気じゃないのかな…と思って」


 パチパチパチパチ…。


「加藤くんも…?」

「なんとなく…会長に拍手したくなって…」

「何変なことをやってるんだ…。二人とも」

「言ってみて、俺たちが二人の関係に役に立つのかは分からないけどね」

「……そっか、やっぱり知ってたのか」


 少し悩んでいた会長は息を吐いてからこう話した。


「あの、花岡と自然に手を繋ぐコツを教えてくれ!」

「……」


 そこから爆笑してしまう加藤に俺もぼーっとして今の話を理解しようとした。

 精一杯頑張って理解しようとした…。今、会長が言ったのは彼女とどうやって手を繋ぐのかってことだよな…?聞き間違いか…?それに悩む必要があるのか…?いやいや…、手じゃなくて…デートだったかもしれない。俺の聞き間違いだよな…?


 そんな悩みなど、考えたこともない…。

 そばから腹を抱える加藤とぼーっとしている俺に、会長も恥ずかしがっていた。


「なんで、笑うんだ!加藤くん!そして神里くんも、なんとか言って!」

「へえ…、会長。花岡のことだと思ってたけど、まさかそんなことを悩んでるとは思わなかった…」

「なんで…?」

「てっきり、キスとかハグとかそんなことで悩んでると…」

「僕は二人みたいな人じゃないから、そんなレベル高いのは無理だよ」

「まぁ…、世の中にはいろんな人がいるからね。でも、手を繋ぐのはそんなに難しくないよ…?」


 二人が付き合ってるのは知っていたけど、後夜祭の時に抱きしめただろう…?会長は花岡を抱きしめた時を感覚を覚えているはずなのに、それでもまだ手を握るのが怖いのか…。ある意味で会長可愛いな…。意識すると恥ずかしくなるタイプかな…?


「そう…?」

「普通に握ってもいいんじゃね?」

「だと思う」

「でも、なんかそれ…そう!ムードとか!」

「手を繋いだまま、セックスまでしたいってわけ?」

「神里くん!」


 顔が真っ赤になっちゃった…。ごめん…。


「まぁ…まぁ…、だからそんなに緊張しなくてもいいよ。花岡も会長のことが好きだからね?そこまでムードとかにこだわる必要はないと思う。キスとかそれ以上のことならこっちの変態加藤が詳しいからな」

「はあ…?俺そんなに詳しくないし…」

「上野に聞いてみようか…?」

「ちょっと詳しいかもな…」

「それで、神里くんは僕の方から普通に手を繋いでもいいってことだよな…?」

「そうだよ!それだよ!会長、緊張せず行け!」


 一方、その話を生徒会室の外で聞いている花岡と女子二人がコソコソ話していた。


「なんか…、ちょっといやらしいことを話してるような…」

「柊くんも変態…、会長に何を話してるのよ…」

「それでも、花岡先輩…可愛い彼氏ができましたね!」

「……そ、そう…?」

「会長はそんなに可愛い人だったんですか…!」


 何も言わず、ただ頷くだけの優香だった。


「あ、そうだ。会長は花岡とどこまでしたい?」

「えっ?ここでそんな話を…?」


 生徒会室から聞こえるその話に、優香が耳を傾ける。


「僕は…、なんて言うか。ううん…、キス。できるならやってみたいな…と思ってるけど…。いつできるのかは分からない」

「へえ…、会長もやりたいんだ」

「そう…!あのさ、キスってどんな感じ…?」

「キスか…」


 そばでじっとしていた加藤が「フフフ」と笑いながら口を開ける。

 なんか、こいつが言う時にはいつもヤバそうな単語が出るから心配になってしまう。


「めっちゃ気持ちいい味がする!」

「なんの味だ…。それ」

「なんか二人っきりのあの…そんな雰囲気があるんだから!やってみれば分かる!今さっさとやってみよう!俺が花岡を呼ぶから!」


 外でびっくりする優香。


「何してるんだ!加藤!」

「あの二人は今日も仲がいいな…」

「え?やってみないと分からないからな!俺に任せろ!」


 と、花岡にL○NEを送る加藤。


 廊下から3人の話を全部聞いていた女子たち、その中で優香が一番慌てていた。

 それから「ピン」と来るL○NEを見て、さらに赤くなる自分の顔に優香は俯いてしまう。二人の前で恥ずかしい顔を隠せるために、じっとして目を閉じていた。


「うう…」


 海「花岡!会長がキスしたいって!」


「へえ、男子だけの生徒会室はあんな雰囲気になるんだ…」

「……柊くん、恥ずかしい…」

「……」


 そして優香一人だけ、ぼーっとしてしまう状況になっていた。

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