第67話 手に入らないもの。

 撮った写真をプロフィールに…、彼女と撮った写真…、なんか特別に感じられる。こうやって写真を撮るのは何年ぶりだろう…。あの写真以外に何も思い出せないほど、俺にははるか昔のことだった…。スマホの画面を見ながら廊下を歩いていた俺は、隣の加藤がくすくす笑ってることに気づく。


「なんだ…?何で笑う…」

「茜ちゃんと写真、撮ったことない…?」

「うん…、多分これが初めてだと思う…。思い出になりそうな…写真、茜と加藤そして上野まで…」

「何だよ…。そんなこと言うな。俺たちはまだ高2だぞ?まだまだチャンスはいっぱいある!」

「そうだよな…?」


 ちょっと嬉しかった…。俺頑張る…、加藤も上野と上手く行ってるみたいだし…。

 俺も茜のそばにいてあげるって言ったからな…。その約束はちゃんと守ってあげないといけない。昔の俺に何があったのかは今にもよく分からない、もうどうでもいい感じになってるけど、加藤の話通り今に集中した方がいいかもしれない…。


「……」


 スマホを見ながら歩いていた俺は、すぐ前に立ち止まる加藤とぶつかってしまう。


「何だ…?加藤?どうした?」

「……森岡」

「はあ?森岡?」


 なぜか、その前には森岡が立っていた。何が話したいのかは分からないけど、その顔は俺たちに不満を持っているように見える。こんな状況で碌な話をするわけないよな…。ところで、もう俺たちと絶交したんじゃなかったのか…。


「加藤、神里…」

「何だ。なぜ、お前がここに来る?」

「どうして二人だけ、そんな可愛い女の子と…」


 まだあんなこと考えてるのか…、もう飽きたんだけど…その言い方は。


「はあ…?俺たちの彼女に不満でもあるのか?そんなくだらないことを言うなら今すぐ教室に戻れ」

「……何で俺のことを無視するんだ。二人とも…、友達じゃなかったのかよ!」

「誰が友達…?」


 どんどん声を上げる森岡に比べて加藤は落ち着いている。

 どんな話をしても返す言葉を用意したように、加藤は冷静に話を続けていた。そして話が長くなると、廊下で口喧嘩をしていた俺たちに人々が集まってくる…。早く終わらせないといけないのに、俺の出番がなくて何とも言えない状況だった。


「……最初から、そうだったのか」

「はあ…?何を言ってるんだ。別に…?むしろお前が俺たちに面倒臭い存在だとは思わないのか…?」


 うわ…、加藤なかなかやるな…。


「何…?」

「いつも、女の子…女の子…、紹介してくれ。加藤はモテる人だろ?神里にも言ってくれ…。彼女欲しいんだマジで。そんなことを言ってる人とどうやって友達になれる?はあ?俺は最後までお前のことを友達だと考えようとした。でも、お前が流したその噂を聞いたら、もうお前なんかどうでもいい。俺たちの前で消えろ、森岡」

「俺は…、俺は好きだった女の子を神里に取られたんだよ!神里は…、俺を手伝ってくれるって言ったくせに、あの子と付き合ってるんじゃないのか!」

「いや…、それは!」


 その話にムカついた俺が加藤の右手を掴んだ。

 ここからは俺が出るって言うタイミングだったのに、小さい声で「出るな」って話した加藤がすぐ森岡に答える。


「元々、お前なんか誰も気にしていなかった…。それでも俺は友達がいい人と付き合って、幸せになる姿を見たかったから、頑張ってたのに…。お前の基準には合わせねぇよ!いい加減に自覚しろ!何でお前はいつも美少女ばかり探してるんだ!そんな可愛くて綺麗な人がお前のことを好きになれると思うな!」

「俺は…!」


 ド正論…、俺が言いたかったことを代わりに言ってくれたんだ…。

 ざわざわするクラスの中でまた変な話が続けていた。「取られた」か…、そんな刺激的なワードを口に出せるとは思わなかったけど、一体どうしたらお前は満足するんだ。森岡、俺はお前のことをよく分からなくなってきた。たとえ、綺麗な人がいてもお前は…彼女に相応しい彼氏になれるのか…?俺は前のことでお前にガッカリした。


「くっそ…!どうしてお前らだけ…、そんないい人と…」

「へえ…、俺たちに腹いせ?何で?あ〜あ〜、そっか?確かに一年生だった時にけっこうあったよな…?俺たちの周りにいつも女子が寄ってきたから…、もしかしてお前も同じレベルだと思ってた?まさかそんな錯覚はしてないよな…?頼む、吐きそうだから」

「……」

「その顔は、やはりそうだと思ってたのか…?」

「もういいんだ。加藤、森岡教室に戻れ」

「くっそ…、お前は黙れ神里…!友達に好きな人を取られた気持ちなんかお前は知らないんだろ!」


 今すぐお前を叩き潰したいけど、精一杯我慢しているんだ…。


「君たち、もうやめろ!」

「か、会長…」

「今すぐ教室に戻れ。全員」

「……」

「夕…」


 会長は先生が来る前にこの騒ぎを鎮めた。

 掲示板にポスターを貼る時、俺たちが喧嘩しているのを花岡に言われてすぐ走ってきたって…。ごめん…会長。俺が何とかしたかったけど、森岡は俺たちの話を全然聞いてくれないんだよ…。


「全く…、二人は!」


 結局、こうなるのか…?

 お前とはもう仲直りできない状況まで行っちゃったんだ…。はあ…。


「ありがとう。会長」

「口喧嘩禁止、二人とも分かった?」

「はい…」

「おう!」

「笑ってる場合じゃない!加藤!」

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