14:妬む。

第66話 君となら。

 夏が終わる頃、俺は外の雲を眺めながら授業を受けていた。

 いつもと変わらないこの教室は加藤の背中にバカと書いてあげたいほど…、平和だった。それより茜が見せてくれたあの写真からどんな手掛かりも見つからなかったことが気になる。結局、あの日は茜とセックスもできなかったし…、あの子を思い出すのもできなかった。


「一体…、何してるんだ…。俺は…」

「おい!神里、集中しろ!」

「はーい」


 吉田…なんで俺だけ…加藤も寝てるんだろ…!


 そして休み時間、机に伏せていた俺の前に加藤が現れる。


「おい、寝てるのか?」

「いや…、ちょっと疲れて…」

「へえ…、夜は忙しかったんだ…」

「違う、何言ってるんだ…」

「俺、美穂ちゃんのクラスに行くけど、お前は?見に行かないのか?」

「行く」


 廊下を歩くと、まだ俺をいやらしい目で見ている同級生が多かった。

 俺は普段から後ろでコソコソ話している人たちを無視してきたから、何を言われても俺とは関係ないと線を引いていた。仲がいいわけでもないし、話もかけないし…。でも、たまに出しゃばる人のせいでちょっとムカつくって言うか…。いつも同じことを話してあげるけど、全然聞いていない。なんだろう?じゃあ、なんで俺に聞く…?


「あ〜あ〜、柊はいいな」

「いきなりなんだ?」

「人気者、みんなに見られている」

「喧嘩を売ってんのか…?」

「本当にあいつのことほっておいてもいいのか?」

「気にしない。あいつか後ろでどんな汚いことをしても、俺はお前と茜…それでいいんだ」

「そっか…」


 加藤は元々そっちの人だったから、みんなは加藤に対して何一つ言わなかった。

 でも、俺は違うのか…?俺ならどうにかできそうだから…、ハードルが低い俺がそんなことをやってはいけない。そんなことか…、この前にもある女の子が俺に告白をした。神里は女なら誰でも好きで、すぐ付き合うから私にもチャンスがあるんじゃないかな…って、そもそも彼女いるし…あんなちょろい人とは関わりたくなかったから適当に誤魔化して断った。


 いつまで続くつもりだ…。

 森岡、お前の腹いせならもう飽きたぞ。


「美穂ちゃんだ!」

「せ、先輩…!」

 

 上野のクラスで挨拶をする二人、そしてその後ろからちらっと顔を出す茜が手を振っていた。


「柊くん…」


 今日はツインテールか、可愛いな…。普段から愛嬌を振りまく姿も可愛いし、嫉妬や独占欲があるのも可愛いから…、仕方がなかった。それに俺と付き合っていても同級生や先輩に告白されるって…、モテすぎるのもいいことばかりじゃないんだ…。俺はなんとなく慣れてきたけど…、今の茜はいろいろ大変そうに見える。


 そしてざわざわしている加藤の方を見ると、なぜか抱きしめ合う二人に吉田が怒っていた。


「おい!加藤、廊下で何してるんだ!廊下でそんな行為は認められないぞ!」

「吉田、彼女いないから俺に腹いせしてるんだ…」

「……や、やめろ…!ど、どうすれば高校生と付き合えるんだ!教えてくれよ」

「それ犯罪じゃないのか?吉田…」

「くっそ…!冗談だ!とにかく廊下で変なことをすんなよ」

「はーい」


 怒る吉田可愛いな…、吉田はいい先生…なのにどうして彼女ができないのか分からない。そしてまたイチャイチャしている二人の姿を見つめていたら、後ろからこっそり手を繋ぐ茜が微笑んでいた。


「へえ、人がいるところでもできるんだ」

「フフッ、私は強くなったよ!もう、緊張しない…!」

「よかったね?」

「あの柊くん…」

「うん?」

「今日、私どー!」

「どうって…?」


 髪のことか…、あるいは何か変わったところがあるのか…?

 目をキラキラしているから、ちゃんと答えてあげないと…。


「髪のことだよね?」

「うん!どー!」

「似合うよ…」

「それだけ…?それだけなの?」

「えっ…、か、可愛いけど…?」

「うん!」


 そして向こうからこっちを見つめていた二人がくすくすと笑っている。


「そっち!なんで笑ってるんだ…!」

「なんか、お前…茜ちゃんの前にいるとめっちゃ照れるからな〜」

「柊くんは私の前で照れるの?」

「……そんなこと…」


 と言ったら茜が傷つくよな…?こいつわざわざ俺に恥ずかしい言葉をさせようとしてるのか…。いけない、茜と目を合わせるたび、ベッドであったことを思い出してしまう。やばい、まだ裸の茜が頭の中に残ってるから余計に気になる…。でも、一緒に過ごした時間が長いからか…、どんどん茜から見えるあの姿が消えていくような気がした。


 気のせい…?


「うん…?」

「ちょっと、恥ずかしいこと言わせないで…」

「言ってくれないと…、分かんない…」

「彼女だから、照れるのが当然だろ…!はい、これで終わり!」

「へへ…、好き」


 くっそ…、加藤にやられた…。

 本当に、この3人を何って言えばいいのか、これが青春みたいな感じ…かな…?


「はい、みんな!一緒に写真撮ろう!」

「いいですね!」

「柊くんもこっち来て!」

「はいはい」


 画面の下側には俺と茜、そしてその上には上野とスマホを持つ加藤がいた。


「行くよー。チーズ」


 シャッターの音とともに手をぎゅっと握る茜。


「……」


 すでにL○NEを交換した俺たちはグループチャットで先撮った写真を共有する。そして俺と茜が写った部分をプロフィール写真に設定した茜が画面を見せつけた。これはちょっと恥ずかしいけど、ニコニコしている茜の顔に俺も笑みを浮かべてしまう。


「どー!」

「可愛いね」

「柊くんは?」

「えっ…?俺も?」

「だって、柊くんのプロフィール写真…わけわかんない灰色じゃん…」

「あ、まぁ…。どうして灰色なのか…俺もよく分からないけど、分かった。俺もそれにする」

「やった…!」


 好きな人がいるのはすごいことだった。

 本当に…すごい。


 そうやって4人が仲良く話しているのを後ろから見つめていた翔琉が少し悲しい表情をしていた。


「……」

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