第57話 遭遇。−2

「なんで…?」

「えっ…?」

「なんで、美穂ちゃんが謝る…?何もしてないじゃん…」

「……でも、私がブスだから、先輩に似合わない人だから…!加藤先輩があの先輩に…」


 心にもないことを加藤先輩の前で言い出してしまった。

 止まらない涙を流しながら加藤先輩と目を合わせた時、先輩は何も言わずに私の頭を撫でてくれた。意識してなかった人を意識するのはこんなこと…?生意気なことだと思うけど、今目の前の先輩を抱きしめたくなる…。本当に面倒臭い女だよ。私なんか…、ついて来なければよかったのに…。


「泣くなよ…。俺は美穂ちゃんのことそう考えてないから…、あんな先輩の話は無視してもいいよ」

「はい…」

「もう別れた人と話なんかしたくないから、そして今俺のそばにいるのは美穂ちゃんでしょう?」

「……私はあの…、先輩のそばにいてもいい人になりたかったので…。あの先輩の話を聞いてちょっと…」

「あ…、気にしないでそんなこと」

「でも、私は茜ちゃんみたいな可愛い女の子じゃないから…」


 どんどんいじけてしまうこんな自分が嫌だった。

 私の涙を拭いてくれる加藤先輩にまた迷惑をかけて、一体何がしたいのか分からない。こんな自分がバカみたいってこともよく知っている、やはり私なんかが先輩にこんな気持ちを抱くなんて無理だよね…。特別な人だから、加藤先輩は。


「うん…、可愛いとは距離があるかも。美穂ちゃん」


 やはり…。


「てか、美穂ちゃんは可愛いと言うよりちょっとクールで成熟した女性になるかもしれない」

「私がですか?」

「うん。だってスポーツ好きだから身長も年頃の女の子より高いし、俺は美穂ちゃんの友達…茜ちゃん以外はよく知らないからね?」

「……」

「茜ちゃんは確かに可愛いよ。150センチくらいで男の保護本能をくすぐるようなイメージだから、でも美穂ちゃんは違う。俺が175センチなのに、俺と目線が合うほど身長が高いじゃん。足の長いし、モーデルみたいだからね」

「そ、そうですか…?」

「周りに身長が高い女性がいてね。あの人スタイルがすごいって…、うちのお姉さんだけど、ちょうど美穂ちゃんと同じくらいかも?だから無理矢理可愛くならなくていいよ」


 私を安心させるために言ってくれたのかな…。

 その話がとても嬉しくて、いつの間にか先輩の袖を掴んでいた。何を言えばいいのか…、その場でじっとしていたら、こっそり私と手を繋ぐ先輩にびっくりしてしまう。いきなり、手を繋ぐなんて…。体は固まったまま何も口に出せなかった私はじっとして先輩の手を握だけだった。


「ありがとうございます…」

「あの人が変なことを言ったけどさ、俺は美穂ちゃんのことけっこう綺麗だと思ってるよ。成人になったら成熟した女性になるから、楽しみだよ〜」

「えっ…?私ですか?」

「うん。うちのお姉さんを見ているような気がして、なんとなくそう思ってしまう」

「加藤先輩のお姉さん…」

「そろそろ二人のところに戻ろうかな?あの二人、絶対いやらしいことしてるから…」

「えっ…!」


 いやらしいこと…。

 そう言えば、茜ちゃんは神里先輩とどこまでやったのかな…?お似合いのカップルで本当に羨ましい…、いつもそのそばから話を聞いているけどね。実は茜ちゃんのことがすごく羨ましくて、私にもそんなチャンスが来て欲しかったの…。


 今は家の反対でバドミントンも辞めちゃったし、勉強しながら生きがいを感じたい…。勉強ばかりの人生は嫌、私も高校生になったからね…。少なくともいい思い出を作りたかった。今みたいな時間がずっと続いたらいいなって、心の底からそう思ってしまう。


「あの手…、もう離してもいいです。ありがとうございます…。励ましてくれて…」

「うん?離したい?俺はもうちょっとこうしたいけど…?」

「……先輩がそうしたいなら私も…、従います」

「美穂ちゃんも可愛いね。あ〜あ〜、あの先輩たちのせいでせっかくのデートが無駄になっちゃった」

「……」

「あの二人と美味しいもの食べよう。美穂ちゃん」

「は、はい!」


 そうやって私たちは茜ちゃんと神里先輩が待っている中央通路に向かう。


「よっ!柊、二人きりでどうだった?」

「それはこっちのセリフだ。先、お前の元カノと話したぞ」

「へえ、あの人柊にも声をかけたのか…?」

「まぁ…、なんとか説得してほしいみたいなこと言われたけどさ」

「もちろん」

「やんない」

「それな」

「面倒臭いよ…。そんなの」


 先輩たちが話している時、茜ちゃんはこっそり繋いだ私たちの手を見つめていた。

 目をキラキラして「二人どうなったの?」「知りたい!話して」が茜ちゃんの顔に出ていたから、さりげなく目を逸らしてしまった。恥ずかしいけど、それでも加藤先輩と繋いだこの手は離さなかった。ちょっとだけ、自慢したかったって言うか…。


 私の友達に見せつけたかった。


「じゃあ…、まずは昼ご飯を食べよう。あれ?二人、付き合ってんの?」

「うん?どう?美穂ちゃん?どう思う?」

「お前、それを後輩に聞くのか…」

「……え…っと…」


 私を見て微笑む加藤先輩に、なんとなく頷いてしまった。

 話の流れに乗ってそう答えてしまったけど、加藤先輩は大丈夫かな…?私なんかとそんな関係になっても、本当にいいのかな…。今だけならいいよね…?と、私はそう思いながら複雑になった今の気持ちを抑えていた。


「え…?マジ?え?えー?」

「えーってなんだ!えーって!どう!似合うんだろ?」


 嬉しい…、嘘でもいいからこの時間が続いてほしい…。


「上野!加藤に変なことされてないよね?」

「い、いいえ。全然…何も…」

「失礼だな。柊、俺がそんな人に見えるのか?」

「うん。100%何かしたと思ってた」

「うるさい!昼ご飯食べに行こう!」

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