第39話 夢の中にいるような。
———チャイムが鳴いている一年C組。
お兄ちゃんと昼ご飯を食べてから、私たちは午後の授業があってすぐ教室に戻ってきた。先、屋上であったことは本当なの…?まるで夢みたいな話だった。お兄ちゃんが、今までずっと待っていたお兄ちゃんが、私と付き合って…。私がお兄ちゃんの彼女になってしまった…。これは夢…?本当に現実なの…?顔が熱くなって、いまだに心臓がドキドキしている。私、どうしよう…落ち着かないよ…。
しかも、付き合う前にキスなんて…。
そんなに早く…やっちゃうの…?
「茜ちゃん…!どこに行ったの?」
教室に戻ってきたら、なぜか慌てている美穂ちゃんが私に声をかける。
「わ、私…せ、先輩と昼ご飯…」
「先輩なら神里先輩のこと?」
「うん。そうだけど?」
「よかった…。昼休みにうちの教室がめちゃ混んでたから行ってみたけど、二年と三年の先輩が茜ちゃんのことを探してたよ…?」
「私を…?なんで…?」
「あれでしょう?SNSにアップロードした写真…」
「あ…、私は変なことをしてないのに…。どうして私たちがデートしただけで先輩たちが怒ってるの?よく分かんない」
それがよく分からなかった。私はただ…、先輩と一緒に楽しい時間を過ごしたかっただけなのに、知らない人に写真を撮られて今はSNSで広がっている。
「多分、あの先輩たちは茜ちゃんと神里先輩の関係が気に食わないから…そんなことをやってるんじゃないのかな?」
「ちょっと…怖い。なんで私に…」
「それより一年生の中にも茜ちゃんのことが好きって、私に連絡先を聞く男子多いからね?」
「ごめん…。美穂ちゃん…私のせいで…」
「いや…。こんなこと慣れてるから大丈夫。ただ私は茜ちゃんが心配になるから…」
美穂ちゃんにはいつもこんなことを聞く人が多い。私の連絡先とか、私が何を好きなのか…、もちろん美穂ちゃんは答えてあげないけど、その度…私はいつも美穂ちゃんに罪悪感を感じる。私の代わりにいろんな男子に声をかけられるから、大丈夫って言ってくれる美穂ちゃんに私はだた抱きしめてあげることしかできなかった。
「それより…茜ちゃんはどうして先輩に告白しないの?」
「柊先輩に?」
「うん…。お似合いだから…、あの先輩も茜ちゃんのこと気に入ってるみたいじゃん」
実は昼休みにお兄ちゃんと付き合うことになったって…、美穂ちゃんに言ってもいいかな…。お兄ちゃんに迷惑をかけるかもしれないから、今は黙っていた方がいいと思う。それより…私がお兄ちゃんと付き合っているこの状況がまだ夢みたいで、心の底からすごく浮かれていた。
「うん…。でも、後輩がそんなことを言うのはちょっと生意気だから私はそばにいてくれるだけで十分だと思う…」
「……」
じっとこっちを見ていた美穂ちゃんが急に私を抱きしめて、「キャー!」と声を上げた。
「ど、どうしたの…?」
「なんか、可愛い…。私もこんな妹とか後輩が欲しいよ!神里先輩羨ましい…」
「そ、そう…?私、可愛い…?」
「本当に…、むしろ神里先輩にあげたくないくらい…。私が男だったら茜ちゃんと付き合う!絶対!」
「何それ…バーカ」
でも、私に美穂ちゃんがいて本当によかった…。
美穂ちゃんがいなかったら頼れる人もなくなるし、私はこの瞬間が幸せだよ…。
「あの…、雨宮ってさ…」
そして放課後。
カバンに教科書を入れる時、クラスの男子が私に声をかけてくれた。
「うん…?確かに…小松くん…?」
「あ、僕のこと知ってたんだ…」
「名前くらいは覚えているけど、私に何か用でもあるのかな…?」
「この写真はやはり雨宮だよな…?」
またあのSNSの写真を私に見せてくれた。朝からこれに悩まされて、もうやめてほしかったのに…、やっぱりこの写真はよくないのかな…。悪いことはしていないのに、どうして周りの人たちは悪人みたいな扱いをするのかな…、分からないよ。
「うん…。私だけど?」
「そっか…、あの先輩…神里柊だから気をつけて…。僕は雨宮のために言ってあげるんだから…、もしカッコいいだけで付き合うんだったらやめた方がいいよ。マジで」
「……なんで小松くんにそんなことを言われなきゃならないの?先輩のこと何一つ分かってないんでしょう?」
「あの先輩、変な噂が流れてるから言ってあげたんだよ」
「私は噂で人を判断しない…、私の目で人を判断する。小松くんにはそんなことを言う資格なんてない」
「……わ、分かった」
私の前でお兄ちゃんの悪口をするのは許さない…。私のことなら気にしないけど、お兄ちゃんは他人に悪口を言われるような人じゃないから…、それは私が一番よく知っている。お兄ちゃんは優しい…、私があの女性と会った時もそう言ってくれた。
「茜」
お兄ちゃんの声…!
「柊くん…!」
「ごめん、ちょっと遅かったよね?L○NEは送っておいたけど…」
「う、うん…!見たよ!」
「あ、神里先輩だ!」
そばにいた美穂ちゃんが明るい声でお兄ちゃんに声をかけた。
「あ、うん。確かに上野…だよね?」
「はい!上野美穂でーす!」
「上野のことなら茜から聞いたよ。いつもありがとう、茜のこと大切にしてくれて…」
「と、とんでもないことです!」
なんか美穂ちゃん緊張してる…。
やはりお兄ちゃんの前で緊張するのは仕方がないよね…?カッコいいし、優しいから…!仕方がないよね…!本当大好き…、早く家に帰って二人っきりの時間を過ごしたい…。
「そっか、上野はいい友達だよね」
「へへ…」
美穂ちゃんは友達だから嫉妬なんかしないけど、私のことも褒めて欲しいのに…。
「あ、そうだ!柊くん、今日はマートに寄るの?」
「そうだよな…。うち、食材がもうないから…行こう」
「うん、分かった。美穂ちゃん、私たち帰るからね!」
廊下で話している私たちを見て教室の中がざわざわしているけど、誰もそれに気にしていなかった。ただ、私たちの話を続けるだけで全員それを無視している。
「うん!そう言っても、早くイチャイチャしたいんでしょう?茜ちゃん」
「…へ…変なこと言わないでよ…!」
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