第37話 汚い俺を。−2

 吉田に呼ばれるようなことはしてないのに、なんだろう…。

 そんな疑問を抱えて委員長と一緒に職員室まで歩く時、日誌を抱えていた彼女がそわそわしながらこっちを見ていた。何か話したいことでもありそうな顔をして、黙々と歩いていた委員長が俺の前で立ち止まる。


「ねえ…。あの、神里くんはあの一年生と付き合ってる…?」

「あの一年生?」

「うん。神里くんが教室に来る前にみんなが話してたから…」

「あ…、委員長はどうして俺にそんなことを聞く…?」

「……」


 それより、委員長と俺はどこに向かっているんだ…?

 この道の先には職員室なんかないと思うけど、もしかして俺を呼び出すために嘘をついたのか…しかもあの委員長が…?そんなわけないよな…。


「ここ…」

「うん…?」


 今は誰も使っていない倉庫みたいな教室、ここは吉田に頼まれて一回だけ資料を運んできた覚えがある場所だった。この教室に頼まれたことでもあるのか、そして委員長と二人きりになったこの状況で彼女はなぜか教室の扉を閉じていた。


「なんで…閉じる?」

「聞きたいこと、あるよ」

「あ、うん…」

「神里くんは…どんな女の子でもいいの?」

「はあ…?なんの話だ…」

「噂があったから…、二年生の神里柊は女好きの人って…すぐ付き合ってすぐ乗り換える人だから…誰でもチャンスはあるって…」

「誰がそんな…ことを」


 変な噂が流れている…。今まで何もなかったはずなのに、どうしてそんな話が委員長の口から出るんだ…?しかも、すぐ付き合ってすぐ乗り換えるのは一体誰の話なんだ。俺に彼女すらいないのに…。あ、だからそんな目で俺を見ていたのか…。


 前とはちょっと違っていた雰囲気は俺のせいだったのか…?そんな馬鹿な…。


「私も友達が言ってくれたの…」

「それで、吉田先生の名前で俺に嘘をついたってわけ?」

「……私は一年生の時からずっと神里くんが好きだったから、ちょっとだけでもいいから一週間でも、いや…三日でもいいからそんなチャンスがあれば掴みたい…」

「知らなかった。委員長はいつも真面目な人だから、顔と名前だけは覚えている…。俺はクラスの女子とあんまり話をしないから、でも…」

「……私もこんな風に話したくなかった…。でも、あのSNSで神里くんが知らない女の子と一緒にいるのが嫌だったから…、私はいつか神里くんが心を開くと思って…ずっと待っていたのに…」


 ずるい、俺の前でそんな涙を流したら断るのも難しくなるんだろう。

 なんで加藤じゃなくて俺を好きになるんだろう…。ある意味で俺がクソってことには同意するけど、変な噂が流されたままなら状況がもっとややこしくなるかもしれない。雨宮のこともあるし、今は委員長のことをどうにかしないと。


「うん…?私とちょっとだけでもいいから付き合ってくれない?神里くん…きっと付き合ってみたら分かるよ…!」

「やっぱりそれはできないよな…」

「どうして…?やはりあの一年生と…」


 ごめん…、雨宮…。


「誰がそんな写真を撮ったのか分からないけど、デートってことは事実だから…。俺が何を言いたいのかもう分かってるんだろう…?」

「……二人は本当に付き合ってたんだ…。神里くん、女の子に興味ないって言ったくせに…」

「うん。でも、あの子は違うから…仕方がないよな。委員長はいい人だから、必ずいい彼氏ができるよ。話はこれで終わり、誰にも言えないから…その噂もそして俺のことも忘れてくれ」

「……うん。ごめん…神里くん」


 涙を流している委員長にハンカチをあげてから、すぐその教室を出た。

 それより、委員長はいい人だから先のこと誰にも言わないよな…。なんか素直に諦める人には見えなかったから雨宮の名前を口に出してけど、本当「付き合う」ってなんだろう…?どれだけ足掻いても届かない人なのに、それでもあの人が好きになるのはよく理解できない。


 授業を受けても、複雑になった感情はそのまま続いていた。


「ヤァー!柊、どうだった吉田は?」

「まぁ…、いつもと同じ」

「そっか…。でも、ちょっと疲れてるように見えるけど…?」

「何もなかったー。早く家に帰ってのんびりしたいな…。今はそうしたい」

「でも、茜ちゃんはそうしたい気分じゃないかも?」

「はあ?なんでこのタイミングで雨宮の話が出るんだ」


 さりげなく指で指したところにはなぜか雨宮がいて、こっちがびっくりしてしまう。


「ほら、そこにいるんだろう?」

「……」


 そっか…、もうお昼か…。


「わざわざここまで来なくてもいいのに…」

「柊くん…、お昼!」

「あ、うん。ちょっと待って」


 やはり雨宮の登場にざわざわしている。あんまりジロジロ見ないで欲しいけど、こいつらにはマナーってことがないのか…、早く行かないと俺を待っている雨宮が緊張してしまうかもしれない。声もちょっと震えてるし、体も固まってるような…。


「行こう。雨宮」

「うん!」


 二人がいなくなった教室の中、ざわざわしていた教室がさらにうるさくなる。


「やっぱり、あの二人付き合ってたのか…」

「しかも、あの一年生は神里にため口で言ってたぞ。聞いた?」

「そうそうそう。聞いた聞いた」

「……羨ましいな…。くっそ」

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