3:新しい始まり。

第9話 二年生。

 時間ってあっという間に過ぎてしまう。

 短い春休みが終わり、俺たちは2年生になってしまった。今年も加藤や森岡と同じクラスになれるかな…、他のクラスになっちゃったら新しい友達を作らなければならない…。こう見えても、俺ってすごい陰キャラだからな…。1年生の時はあの二人がいて無事に学校生活ができたけど、あの二人がいなくなったら心配になってしまう。


 特に加藤の存在感が凄すぎて楽だったと思う…。


「柊、何組?」


 掲示板に載せているクラス替えを見ていた加藤が俺の背中を叩いた。


「2年B組、お前は?」

「おー、B組か…。一緒だ!」

「なんで加藤と一緒なんだ…。新しい友達が欲しいけど…?」

「そう言っても俺がいないと寂しくなるんだろう…?」

「……るせぇ」

「そう言えば、森岡は何組?ここにはないな…」

「なら、別のクラスじゃないのか?」


 すると、向こうから声を上げる森岡が俺たちを探していた。あの声…、やっぱり一人だけ離れてしまったのか、ちょっと泣きそうな顔をしている森岡がこっちに近づいてくる。


「なんだ…」

「どうして俺一人だけD組なんだ…!」

「え…、それは残念…。頑張れ…加藤が会いに行くって!」

「……」


 そして絶望的なチャイムが鳴いてしまった。


「チャイムか…、そろそろ戻らないと…」

「またね。森岡…、が…頑張れ!」

「置いて行かないで…!神里!加藤!」

「これは俺たちの力でどうにかできるもんじゃない…!さよなら…、森岡…!また会おう!友よ!」

「何変なこと言ってるんだ…。加藤…」

「だよな…。なんか寂しそうに見えたから…」

「……お前…」


 そしてクラスの中に入ると、加藤の外見に惹かれて目を離さない女子たちがざわざわしていた。こいつは1年生の時にもそうだったけど、めっちゃモテるやつだな…。俺もその外見だけは認めるしかできないほど、加藤のやつは美少年だった。こいつは根本的な部分から優れている。だからみんなの憧れになっているかもな…、そして加藤は2年生になってからさらに人気者になってしまった。


 新入生の間でもその名が知られているほど…。

 なんか、一緒に歩いてすみません…。と、言ってしまいそう。


「席は適当でいいだろう?」

「かもな…」

「あのさ、柊」

「うん?」

「あの人とは楽しかった…?」

「こんなところでそんな話をするのか…、お前ってやつは…」

「まぁ…、知りたくなかったけど、ちょっと忙しかったってL○NEが来たからさ」

「返事はしたのか、よかったな…」

「どうやらひどくやられたようだな…。お前」


 そう言ってから、俺の首筋に貼っていた絆創膏を剥がす加藤。

 そこには昨日、美香さんにつけてもらった赤いキスマークが残っていた。大学生とあんなことやそんなことをする高校生か…、あんまり話したくないけど、加藤はいつも知りたがるから仕方がなかった。


「……よこせ」

「お前もけっこうやるよな」

「俺も…、あああああ〜。そんなこと知らないからもう言うな」

「まぁ…、避妊はちゃんとしろよ」

「それはこっちのセリフだ…」


 俺たちは雑談をしながら担任がくるのを待っていた。すると、教室に入る2年B組の先生は俺たちを見てから教卓に教科書を置く。なんかため息をついてるような気がして、前に座ってる加藤が先に声をかけた。


「吉田先生、今年もよろしくお願いしますー!」

「……どうして、お前が俺のクラスにいるんだ!海!」

「フッ…」

「笑うな!神里お前!」


 1年生の時も吉田先生が担任だったのに2年生になっても同じか、吉田先生はいい人だよな…。


「まぁ…、お前らももう2年生だからちゃんと勉強しろ。分かった?」

「はーい」

「授業で会おう。以上だ。あ、今年もよろしく頼むぞ。海」

「はい〜」


 多分遅刻のことだろう…。こいつはいつも遅刻するから、先生に呼び出されている。もちろん、俺も美香さんとのんびりして遅刻するけど、俺は加藤の8割くらいだから注意すべき人は加藤だと思う。うんうん…、そうだそうだ。


「お前もだ!柊!」

「……はい」


 俺もか…。


 それから始まる加藤の時間、クラスの女子たちがあっという間に加藤を取り囲む。


「あの、加藤くんだよね!」

「あ…うん。ど、どうした?」

「加藤くん!L○NE交換しよう!」

「ちょっと…」

「加藤くんは…あの、彼女いるの…?」

「いるけど、私の彼氏に何か用でも…?」


 ざわざわしている女子たちの後ろから加藤の彼女が現れた。


「い、いいえ…。なんでもないです」

「なら私の彼氏に話しかけないでほしい」

「はい…」


 うわ…、あのプレッシャーさすが3年生か…。

 俺も睨まれてるような気がするけど、それは先輩の友達を断ったことで怒ってるんだろう…。怖いな…。でも、今まで付き合ってきた彼女とは違う気がして、ちらっと加藤の方を見た。


「行こう。海くん」

「はい。あ、その前にちょっと待ってください。」

「分かった。外で待つから」


 先に彼女を行かせてポケットからスマホを出した加藤は、L○NEの画面を俺に見せてから彼女のところに向かう。


「頼むぞ〜」

「なんだ…。森岡か…」


 翔琉「1年にめっちゃ可愛い子がいるって!一緒に行こう!海」

 海「俺は先輩が待ってる、代わりに暇なやつを送るから」

 翔琉「柊か、オッケー!」


 暇なやつって…、俺の話か…。

 すると、先まで加藤を取り囲んだ女子たちが、今度はこっちを見つめていた。


「神里くんも…、彼女いるの?」


 じ…。


「え?いやいや、俺はいないけど…?」

「そうなんだ…。か、加藤くんはいつも忙しいの?」

「あ…。あいつイケメンだろう?仕方がない、むしろ暇なのが不思議」

「じゃあ、神里くんは暇…?」


 話の流れがちょっと変ですけど…?


「あ、俺は森…、ちゃう友達に呼び出されて今ちょうど行ってくるつもりだったけど、何?俺に用でもある?」

「うん…。いや!なんでもない!」

「そっか、分かった」

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