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三人で帰るにも、さっきのキスの話が引っ掛かって、何とも言えない気持ちで歩く。


「何か弓弦って、何もかも済ませたみたいな感じするよな……。」


突然、咲真が言い出す。


「え?」


「キスとか、まぁ色々。」


「色々見たけど、経験は浅いかな。」


「色々?」


「兄貴が女連れ込むし、兄貴の友達もリビングでしてたな。」


「えぇーっ?!」


「うちの親、ほとんど家に帰らないからね。」


「そうなのか。」


「ちゃんと生活費は貰うけど。」


「それは、貰わないとね。」


「お金に困ってないけど、親には成人まで養ってもらおうかと。」


「え?

どういう事?」


「バイトみたいなもんかな。

収入あるから。」


「え?

いつの間に?」


「小学生位からだよ。」


「え?

聞いてない……。」


「最初は親にアドバイスして、お小遣い貰ってただけだったからね。」


「何者だよ。」


「普通の高校生。」


「普通じゃないだろ!」


弓弦が普通で無いのは、私も咲真も分かっている。


「お金に困らないなら高校行かなくて良いだろ?」


「勉強したいからさ。」


「勉強したいって言うのが不思議だよ。」


勉強したい人の気持ちは咲真も私も分からない。


「兄貴の教科書読むようになって、勉強が好きになったんだと思うよ。」


「変わってるな。

それより、いつから兄貴って呼ぶようになった?

兄ちゃんって言ってたよな?」


「兄貴が言うんだよ。

兄ちゃんじゃなくて、兄貴の方がカッコいいって。」


「確かにな。」


「子供の前で兄貴って呼ばれたいとか、よく分からないけど。」


「そういうのは人それぞれって事か。」


「うん。

誰かに迷惑かけたりもしないから、別にいいかって思ったし、俺もちょっとカッコつけたい。」


「アハハ、弓弦もそういう事を考えるんだ?」


「まぁね。」


カッコつけなくても、カッコいいくせに……。


「あっ、じゃあ、俺、こっちだから。」


「うん、またね。」


いつも咲真が先に別れて行く。

家の方向が違うから仕方ないけど。


「沙希?」


「ん?」


「寝てる隙にキスされただけだから。」


「え?」


「ビックリして起きたよ。」


「……。」


「自分からキスしたのは沙希だけだよ。」


「……。」


「さっき、私が初めてじゃないの?って顔してたじゃん。」


「え?」


弓弦は私の事はお見通し。

それが嬉しいような悲しいような。


「ちょっと嬉しかったよ。」


「え?」


「さっきの話で沙希が反応しなかったら、完全に脈がないでしょ。」


「……。」


「いちいち反応が可愛いわ。」


弓弦が嬉しそうにしている。

私は上手く言葉が返せない。


「じゃあ、またね。」


「うん、またね。」


何とも言えない気分で家に帰る事になった。



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