辺境伯夫人とその娘


 マリアンヌ・ライネーリは誰にも言えない悩みがあった。

 破談になって以来、無意識に手が……ショーツの上をさする……


 気持ちよくなり、やめられないのである。


 次第にそれはエスカレート、人がいないと、昼間というのにスカートの中に手がはいる……

 夜、ベッドに入ると、何回も何回も、いってしまう……


 私、病気なのかしら?それとも私、はしたない女なの……

 

 ある時、マリアンヌ付きのメイドに見られ、魔導士である母に知られることに……

 慌てた母親が、よく見てみると……


 性的な呪いがかかっていることが判明したが、かなり違法な禁呪に近い呪い、王国の宮廷筆頭魔導士クラスより上の、聖女クラスでなければ解呪できないとのこと……

 この世界には、聖女が1人……教皇のもとにおられる神殿の『聖女』……

 

 このたび、教皇がバンベルク大主教の就任式典に来られるので、拝謁して、聖女さまの治療をお願いしてみようと、母親と一緒にこの国境まで来たところで……

 甘えん坊のアンドレがついてきたのです。

 

「まさか街道が通れないとは……しかたない、一旦帰りますか……」

 ライネーリ辺境伯夫人は、この日、こんなことを考えていた。


「お母様!ぼくね、いまとても美味しい物を食べました!」


 次期辺境伯となる息子のアンドレが、興奮した顔で、夫人のテントに乱入してきたのです。


「アンドレ、いつも言っているでしょう、貴方は貴族なのよ、お父様のように、いつも威厳をもって、あわてないの」

「だって……さっき、威厳をもって平民に接していたら、姉上に怒られので……」


 よく聞くと、威厳と尊大とをはき違えているようなアンドレ君……


「まったく……マリアンヌが上手く取り繕ってくれて助かったわ……で、マリアンヌはどうしたの?」

「姉上は……なにか急に元気がなくなって、自分のテントにもどって……」


「そう……あとで顔を見に行ってくるから、アンドレは早く寝なさい」

「はい、お母様……その……」

「分かっていますよ、その美味しい料理を振舞ってくれた方には、私がちゃんとお礼を言っておくから、安心しなさい」


 アンドレ君が出ていくと、夫人は慌てて娘のテントに……


「マリアンヌ、私よ、入るわよ」

「また、呪いが発動したの?この母が『睡眠』をかけてあげるから」


「お母様……今は狂っていないわ……実は……」

 マリアンヌは母親に出来事を告白した。


「貴女の呪いを解呪?無理じゃないかしら?聖女様しか解呪できないはずよ……きっとその娘さん、魔力が人並み以上にあるのでしょう、だから解呪が出来るという自信があるのよ」

「お母様、私は……そのエマさんの言葉を信じようかと……」


「そう……なら、いきなさい……」


 マリアンヌがテントの外に出ると、向こうの方で、エマと仲間たちが、楽しそうにお酒を飲んで騒いでいました。


 辺境伯夫人は、マリアンヌの向かう方向をじっと見ていて……


「そう、大した称号ね……『還らずの森』を抜けた、カペーの元王太子婚約者か……あそこを抜けられるものなのか……神の加護持ち……いや、まさかね……」

「1人でいかせたけど、やはり心配よね……」

 

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