A-005. そして、今――

 俺は、金が嫌いだ。


 それは今も変わらない。

 でも、もうそんなちっぽけな感情には振り回されない。

 俺は大人になったのだ。

 たくさんの出会いと別れを経て、少年期は終えたのだ。


 数ヵ月に一度、故郷に帰ることがある。

 今では逞しく成長した弟と、清らかに成長した妹達。

 母さんもちょっとやつれたけど俺を快く迎えてくれる。


『私達は、お前に救われているよ』


 帰る度に聞かされる母さんの言葉。

 そう言ってくれるだけで、俺も心が救われる。


 弟は、働いていた農場の娘と近々結婚するらしい。

 農場主には息子がいないから、将来的に農場が手に入ると喜んでいる。

 狡猾な弟に育ったものだ。


 上の妹は、町の憲兵との結婚が決まっている。

 式は五月末日――きっと俺は式に出ることはできないだろう。

 ……幸せにな。


 下の妹は、俺の影響で冒険者を志したこともあったらしい。

 だが、今は落ち着いて王都で宝石職人として働くのが夢だと言う。

 宝石職人を志すだけあって、熱心なジエル教徒だ。


 家の借金も、もう少しで全額返済できる。

 そうすればみんな、もっと楽に暮らせるからな。

 もう少しだけ……我慢してくれよ。


「次はいつ帰ってこれるんだい?」

「さぁ……。重要な仕事が詰まってるからなぁ」

「体だけは気を付けて。今はもう、お前が戦う必要なんてないんだからね」

「わかってるよ。心配するなって、母さん」


 俺は故郷を出て、待たせていた馬車に乗って王都への帰路に着く。


 次の相手・・・・も手強い。

 向こう見ずなジャスファよりも遥かに上手うわてな男だ。

 だけど、俺は負けない。

 必ず最後までやり通してみせる。


 一度やると決めたなら。

 その身が裂かれようと砕かれようと。

 全霊を尽くして、ただ真っすぐに己の信念を貫き通す。


 お前から教わったことは、今も俺のここに根付いているよ。

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