喫茶アンリ&マユ
ミィコが、『どうしよう?』といった表情で僕のことを見ている。僕もミィコを見る。二人で顔を見合わせた。今の僕も、『どうしよう?』という表情をしているに違いない。
――喫茶アンリ&マユ。あのアンリさんが経営する喫茶店。元々は、夜間経営のいかがわしいお店だったとも聞く。アンリさんのメディア露出が多くなってから、子供へのイメージを改善するために喫茶店に変えたとか、なんとか……。
今では、愛唯や、ミィコ、雪音さんを含む、異能超人のたまり場と化しているようだ。そんな中で、アンリ&マユのメンバーにこの僕が受け入れられるのかどうかも不安だ。
三ケ田さんと話をしている愛唯と藍里。
愛唯の様子は先ほどとは打って変わって、普段通りの愛唯に戻っていた。
僕は……愛唯に近づかない方がいいのだろうか? でも、変に距離を置いて疑われるのも良くないみたいだし――うーん、なんだか難しいぞ。
とにかく、愛唯を刺激しないようにしなければ……でも、僕は、いつまでそうしてなければならないのだろう?
僕がそんなことを考えているうちに、三ケ田さんが、僕とミィコのもとへと戻ってきた。
「待たせたな。二人はすぐにアンリ&マユに向かうそうだ。君たちもこれからアンリ&マユに向かってくれ」
マジか!? 藍里と愛唯、二人と別々にアンリ&マユに向かうことになるのか? なんだか、いよいよ僕は、あからさまに藍里から避けられるようになってきたぞ……。
「あの、リッカさん、アイリとメイさんは一緒に行かないんですか?」
ミィコが僕に変わって三ケ田さんに聞いてくれた。
「ああ、そのようだな。ここからアンリ&マユまでは15分もかからないだろうから、問題あるまい。私も、ここの後処理をしたら、雪音と合流してすぐに向かうよ」
「はい、分かりました!」
ミィコは三ケ田さんにいい返事をしている。僕は、藍里から露骨に避けられてしまっていて、どうにも気が気でない。
「あの、三ケ田さん、僕、アンリ&マユに行くのがちょっと怖いんですけど」
僕は三ケ田さんに、唐突な弱音を吐いてみた。
「大丈夫だよ、さとりくん。彼らはさとりくんのことを取って食ったりはしないから」
「そうですよ、サトリ! みんな、良い人ばかりです! ミコも知らない人ばかりですけど、みんなミコに優しくしてくれます」
二人がそう言うなら……でも、大丈夫なのだろうか?
「それなら、いいんだけど……」
僕のメメント・デブリが、アンリ&マユを警戒している気がしてならない。これも杞憂ならいいのだが――
僕とミィコは三ケ田さんに別れを告げ、喫茶アンリ&マユへと向かった。
遊園地を出て、駅まで歩き、僕たちがホームに着いたタイミングでやってきた電車に乗る。
藍里と愛唯の姿は見えない。
この時間になると車内は多少混みあっていて、残念ながら座席は満席。僕とミィコは、仕方なく、つり革につかまることにした――のだが、残念ながら、ミィコはその身長から、つり革につかまると、どうしても不安定になってしまう。そのため、ミィコは座席の横にある手すりにつかまっているようだ。
ミィコは、手すりにつかまっている反対側の手で、僕のジャケットの袖を相変わらずつかんでいる。しかも、肉球ぷにぷにロッドをその手に持ちながら、だ。うーむ。
なんとなく、僕がミィコの方を見ていると、ミィコも上目遣いで僕のことを見てきた。なんだかこの娘、小動物みたいだぞ。愛唯も小動物っぽさがないわけでもないが、その上をいく小動物っぽさだ。そもそも、小動物っぽいというイメージは、いったいどんなものなのだろう? と、ふと僕は考えてみた。
たとえば、笑顔の可愛い小柄な女の子、その子は小動物っぽいといえよう、しかし、それはなぜか? それは、愛らしいから、だろうか? 逆に、愛唯のように、そんなに小柄というわけでもないけど、僕を見かけるとすぐに駆け寄ってきてくれて、なんだか、人懐っこさ満載だ。おそらく、これも小動物っぽさに入るのだろう。そして、ミィコ、彼女の小動物っぽさは、なんというか、普段は警戒して寄り付かないけど、時々、手の上に乗ってエサを食べてくれるような、そんな小動物っぽさがあるのだ。つまり、ツンとしている子が、時々デレるのは、小動物っぽさなのではないだろうか? という結論に、僕は至ったのだが、なぜだか、ちょっと違う気もする。
うん、まあいい――可愛いのは正義なのだろう。
そうこうしているうちに、電車は目的駅に着き、僕たちは下車する。ミィコは、僕から離れないようにと、今度は肉球ぷにぷにロッドを持っていない方の手で、必死に僕のジャケットの袖を引っ張ってついてくる。
確かに、この混雑したホームでは、人の流れにミィコが持っていかれてしまいそうになる。
案の定、ミィコの手が僕の袖から離れてしまったので、僕は慌ててミィコの手を強く握りしめ、そのまま人の波をかき分けて駅を出る。
しまった、つい、ミィコの手を握ってしまったが――恐る恐る僕はミィコの顔をみる。
「サトリ、ありがとうございます。手、助かりました」
そう言ってミィコは、僕とつないでいた手をサッと放す。素直に感謝されてよかった。肉球ぷにぷにロッドでぶん殴られなくてよかった。
「う、うん、どういたしまして」
肉球ぷにぷにロッドの恐ろしさにびくびくしていた僕は、ミィコに月並みの言葉を返した。
――喫茶アンリ&マユは駅から歩いて数分の所にある。
僕らが喫茶アンリ&マユに着くころには、藍里と愛唯も到着しているころだろう。
駅前からの通りから路地に入る喫茶アンリ&マユが見えてくる。
ふと、僕らの前に怪しげな二人組が――
一人は、なんだか、コートもワイシャツも、レザーパンツもブーツも、それら全部が黒ずくめ、いかにもダークヒーローといった感じの服装をした若い男性。その彼が身に付けているインテリっぽい黒縁眼鏡も、彼のミステリアスかつ、ダークな感じに、よく似合っている、ような気もする。
そして、もう一人……彼女は、かなり異質だ。若い女性……なのだろうか? まるで、赤ずきん――いや、どちらかといえば、彼岸花を彷彿とさせるフード付きのケープコート。そのフードを深くかぶり、そして、何よりも異質で特徴的なのが、彼女の顔を覆った狐のお面。彼女はそのお面で、どういうわけか素顔を隠しているようだ。
――いったい、彼らは何者なのだろう?
黒ずくめの男が僕の方を向いて、中指で眼鏡をクイっと上げる。そして、僕に告げる。
「ほう、君は――鳳城 さとりくん、だったよね? 先に、伝えておくよ。君、次に余計なことをしたなら、その時は――」
彼の眼鏡は光で反射し、その眼差しは隠れたままであった。どのような意図があって僕にそんなことをいうのか、残念ながらその表情からは察することができない。
「次? 次とは? あの、貴方たちはいったい?」
僕は二人に尋ねる。
「そのうち、分かるさ。その時になったら、オレの言葉を、思い出せ……。さあ、行こうか、さとりくん」
彼は、僕の問いかけを軽く流した後、喫茶アンリ&マユのドアを開けて、その入り口で僕たちに向けて手招きをした。彼岸花を彷彿とさせる女性も、黒づくめの彼の後をちょこちょことつけていった。
「さとり、あの二人、三ケ田さんが話していた『愚者』と『審判』だと思います……」
ミィコが、僕にこっそりと耳打ちしてくれた。
「なるほど、あの二人が――」
おそらく、黒ずくめの彼が愚者で、彼岸花を彷彿とさせる彼女が審判なのだろう。
僕たちは、二人の後を追って、店の中に入る――
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