黄色の戦慄
藍里とミィコは、僕のポーチの中身を入念にチェックし始めた。
いくつかのピッキングツール、煙幕弾、何かのルーン石、古びたグローブ、それと変なアヒル。
スタミナ回復薬、生命力回復薬、ブーストポーション、暗視ポーション、透明ポーション。
「OKです」
「うん、大丈夫みたいです」
こうして、藍里とミィコによる僕の装備チェックが完了し、二人からOKをもらえた。
『ここからはテレパシーを使いましょう。聞こえていますか?』
『うん、聞こえるよ。藍里は?』
『バッチリです!』
僕たちは念話での会話を送り合い、やりとりに問題がないかを確認した。
『サトリ、常に連絡を絶やさないようにしてください、約束です。』
『了解』
『サトリが出発したら、ミコとアイリもすぐに移動して城の近くで待機しています』
『さとりくん、危なくなったらすぐに作戦を中止して城から脱出してくださいね』
『そうなったらすぐに逃げるよ』
――僕は藍里から貰った『キャットアイ』のポーションを飲み干し、闇に潜みながら城に向かった。
商業区画のほぼ中央に位置するその城は、城壁と衛兵たちによって厳重に守りが固められている。
『藍里、ミィコ、これより潜入を開始します』
『了解です!』
『サトリ、くれぐれも慎重にお願いします』
城にたどり着いた僕は、真っ先に二人と連絡を取り合った。
僕はミィコの指示通りに、城壁の上にいる衛兵の動きに気を配り――衛兵が持つ松明の光が遠ざかるのを見計らって、見つからないタイミングで城壁にフックをかけ、そのロープをよじ登った。
潜入成功! 意外とすんなり潜入できた。
僕は城壁にかかったロープを回収すると、すぐさま城壁塔の扉に近づき、そっと扉を開けた。
――内部は螺旋階段になっていて、上れば見張り台に、下れば中庭に出る。
僕は衛兵に気付かれないように急いで階段を下り、中庭までやってきた。中庭には衛兵が二人。中庭から
『中庭に無事着いたけれど、衛兵が邪魔で武器庫までたどり着けそうにもない……どうしよう?』
『サトリ、ポーチの中に【アヒルちゃん】が入っています。それを投げて気をそらすのです』
アヒルちゃん――いわゆるラバーダックだ。この世界には、こんなものまで存在しているのか。
『アヒルちゃんの出番ですね!』
藍里はアヒルちゃんの登場に喜びを隠せないようだ。
『でもさ、これ、投げて変な音がしたら衛兵に侵入者がいるって気付かれてしまうのでは?』
『サトリ、大丈夫です。アヒルちゃんの効果は【相手の気をそらす】というものです。なので、四の五の言わずにアヒルちゃんを投げるのです!』
『いや、それ、どういうことなのよ――ええい、どうなっても知らないぞ!』
僕のいる場所から反対側にある城壁塔の入り口、そこを目掛けてアヒルちゃんをぶん投げた。
――グァァァ……。
アヒルの鳴き声とは到底思えないような鈍い音が鳴り響いた。しかも、わりと大きな音でエコーまでかかっているぞ。爆音だ。
城内から衛兵がぞろぞろと中庭に出てくる。
ヤバい――僕は咄嗟に、緊急時の透明ポーションに手を伸ばした。
しかし、衛兵たちはアヒルちゃんを投げた場所、反対側の城壁塔の入り口付近に集まってキョロキョロしている。
うん、衛兵たちはいわゆる脳筋というやつで、思考がとてつもなく単純なのだろう。武器庫までのルートはがら空きだ! チャンス到来、今のうちだ。
手薄となった
『アヒルちゃんのおかげで無事に潜入成功! これから武器庫の扉を開けます』
『了解です! アヒルちゃん用意しておいてよかったです』
『アヒルちゃんは神です』
二人はアヒルちゃんの性能を過大評価している。まあ、確かに、アヒルちゃんのおかげで突破できたのだけども。あと、アヒルちゃん言いすぎ。
今の僕にとって、武器庫の扉ごときを解錠することなど造作もない。いとも簡単に開けることができた。
僕は武器庫のアイテムには手を一切触れずに隠し通路だけを探した。
『ミィコさん、ここで問題が一つ。隠し通路、見つかりません』
僕はミィコに聞く。
『サトリ、場所間違えていませんか?』
『間違いなく、隠し扉があるはずの場所――』
『さとりくん、【押してダメなら引いてみろ】?』
僕がミィコに状況を説明していると、藍里が横からナイスなアドバイスをくれた。
『なるほど――』
僕は押しても横に引いてもダメだったので、城壁をよじ登るのに使ったロープのフックを壁に突き立てて、そのままロープを引っ張ってみた――なんだが手ごたえがある。
一気にロープを引っ張ると、反動でフックが外れてしまった――が、その拍子に壁が動いて隙間ができた。
僕はそこに手をかけて思い切り引っ張った。
――鈍い音とともに、壁が動く。そして、その壁の裏に通路が見える。
『隠し通路、発見! 藍里の言うとおり、【押してダメなら引いてみろ】だった』
『何事も力任せじゃダメ、ということですね!』
『いや、その、力任せに引っ張った……』
なんとか僕が通れるだけの隙間ができた。
僕は体を押し込むようにして隙間を通り、そのまま隠し通路を進む――その先に宝物庫の扉。
『宝物庫の扉を発見!』
『サトリ、ここからが本番です。落ち着いて作業してください』
『了解』
僕は早速、宝物庫の扉の鍵開け作業に取り掛かった。
――1つ、また1つと『ピッキングツール』が破損していく。
ここでツールを浪費してしまうと、最難関の宝箱を開ける余裕がなくなってしまう。
慎重に、慎重に……しかし、成功する気配がない。
『ダメだ! 開かない……!』
僕は弱気になっていた。
この強固な扉の前に、一夜漬けの特訓で身に付けた僕のスキルなど、あまりにも無力だったのだ。この扉で詰まるようでは魔剣の宝箱など手も足も出ないだろう。
先ほどの自信は一瞬にして消え去っていった――
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