僕の友達は少ない

 考えてもみれば、僕は、幼い頃から友達と呼べる相手は愛唯か銀太だけだったことに気が付いた。

 確かに、学校で話す友達のような人物は多いが、こうして、学校以外で繋がりを持ったのは愛唯と銀太以外で藍里が初めてだ。

 もしかして、僕は、いわゆる”隠れネクラ(根が暗い人の略)”というやつなのでは? なんだろう、軽くショックだ。

 軽くショックを受けたせいなのか、今さっき起こった出来事のせいなのか、頭がクラクラする。ひどく気分が悪い……。

 

 そんな僕のことを、藍里はきょとんとした顔をして見ている。そんなに顔色が悪いのだろうか?

「あの、あの! こんなこと言うのは失礼なのかもしれませんが、鳳城さんの左目、なんだか光り輝いています! キラメってます!」

 キラメっているって、『煌き+眼』のことなのだろうか? 不思議な造語だ。

「え? キラメってる?」

 僕がそう聞くと――

 藍里はポーチの中からゴソゴソと鏡を取り出して、僕に手渡した。

「見てください、キラメってます!」

 僕は、藍里から手渡された鏡で自分の顔を見てみる――確かにキラメっている。

「本当だ。キラメっている」

 吸い込まれそうな黄金色、というよりも、金糸雀かなりあ色? のような、そんな光が眼球付近に渦巻いて、淡い輝きを放っている。

「なんだろ? こうしてみると、どう?」

 僕は藍里に向かって目を瞑ってみた。

「見えなくなりました!」

 ふむ。コンタクトレンズみたいに眼球にくっついているのだろうか? 視覚的に変な色がついていることもなく、不快な感じもないのだが……。

「やっぱり、目を開くとキラメってますね! なんだか、色付きのコンタクトレンズみたいでカッコいいです!」


 藍里はそう言うが、僕は得体のしれないものに対して不安しか感じられなかった。しかし、藍里は僕のキラメっている片目のおかげなのか、随分と平常心を取り戻せていたようだ。そういえば、あの時の銀太の眼球も鈍い赤色の光を放っていたような気がする。 僕にも銀太のような能力があったりするのだろうか?


「そうだ、鳳城さん、何か目的があって電気街に来たかったのですよね? なんだか、私の行きたいところばかり付き合っていただいちゃってごめんなさい」

 藍里は申し訳なさそうにしている。

「いや、そんな大した目的でもなかったし、藍里が楽しめたのならそれで……あ、藍里って呼んでも平気かな?」

 僕は焦って聞いた。

「え、もちろんです! 私もさとりくんって呼ばせてもらっていいですか?」

「ああ、もちろん」

 僕は、無意識に初対面の頃から藍里を藍里だと認識して藍里と呼んでいたような、そんな頭がこんがらがるような錯覚をなぜかしていた。なんというか、デジャヴに似たような感覚だろうか? そんな感覚に陥っていた。


 記憶の断片が――僕は、元日に見た夢をほんの僅かだが、偶然にも思い出した。

 そうだ、僕は愛唯の手にかかり……その横で僕の手を握りしめ、涙する人、その人は藍里。

 おかしい、藍里のことは昨日まで知らなかったはずなのに、夢に出てくるはずがない。藍里に似た誰かを藍里だと思い込んでいるのだろうか? 昨日から不思議なことばかりで、これも夢の中なのではないかと不安になってきた。

「ね、さとりくん! さとりくんが行きたいっていうお店、私も行ってみたいです! 今から行きませんか?」

 藍里はキラメっている話で上機嫌になったのか、それとも、今日の出来事を忘れたかったのか、唐突にそう聞いてきた。

「あ、うん、そうだね。お願いしようかな!」

 僕は、藍里を不安にさせまいと、あえて、ラグナアスターで起きたことは口にしなかった。

「行こうか」


 僕らはコーヒー代を支払い、店を後にした。僕が行きたかったお店、それは電気街の老舗にして、最大の品揃え、PCパーツショップ『アノマリー』だ。PCパーツを調べるのには最適なショップだ。

 僕と藍里はショップに向かうため、人気の少ない路地を通っていた。


「アンタたち! 探したわよ!」

 僕らの進行を妨げるように、あの、アンリさんが現れた。神社の近くでリーゼント男を連れ去った人物だ。

 隣には、20代半ばくらいで、魔法少女のコスプレをしている女性もいる。なんだか、彼女は『ハァハァ……』と息が荒い。『全力疾走でここまで来ました』という感じだ。


「さとりくんね? ちょっとだけ、お時間いい?」

 アンリさんがそういうと――横にいたコスプレをした女性が、僕らに向かって指さした。

「さあ、貴方たち、覚悟はいい? これでおしまいよ!」

 息まく魔法少女(?)が声高々にアンリさんの話をぶった切って駆け寄ってくる。


 魔法少女(?)を連れてきたアンリさんもラグナアスターとの繋がりがあるのかもしれないと考えた僕は、藍里に『逃げるよ』と目で合図し――後ろを向いて、駆け出した!

「そうはさせないわ! Ignis-crustuluファイアm-crustulaボーロ!」

 魔法少女(?)は叫ぶ!

「ちょっと、アユミ! やめなさい!」

 アンリさんも叫ぶ。


 しかし、鳴り響く轟音とともに、僕は背中に大きな衝撃を受け、そのまま押し倒されるような形で前のめりになって、こけた。

 すごくダサいこけ方をしただろうな……。


 僕にぶつかった物体は、甘い匂いのする真っ黒に焦げた謎の球体だった。

 なんだ、なんなんだ、これ……?


 そのまま顔を上げると、藍里が駆け寄ってきているのが見えた。

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