38話 思い込みの自我…②

「お前は違うだろ」

「……どこが?」

「お前は、それでも楽しそうじゃんか。ハルナだってそう、カオリさんだって、マオだって。感性みたいなもんが死んでんだろうな。言われたんだよ、なんも好きなもんがないなんておかしいってさ、ハルナに」

「気付いてないだけじゃなくて、本当にないの?」

「それはもはやないも同然じゃないか」

「それは……わからないや」


 難しいことは得意じゃないのだ。考えれば考えるほどパンクして、全てを放棄したくなるから。……放棄、したいのかもしれない。


「アイカ、普段そういうこと考えるだけ無駄って切り捨てるじゃない。おれがうじうじしててもしょうがないだろって、いつもぶつくさ刺してくるじゃない」

「考えたって意味がないことはわかってる……ないもんはないし、必死になって見つけたいとも思わなかったんだけど。ダメだな、生きるとか死ぬとかいざ身近で起きると意識しちまうだろ」


 その感覚は自分にもある。いつも通り過ごせるときは普通に楽しくいられるのだけれど、息苦しくなるたびに、ふとこんな思いをしてまでどうして生きているのかわからなくなる。これだって、まさしく考えてもどうしようもないことなのに。


「……やめよう。それでも考えたいなら、アイカが死んだらおれが悲しむから、生きててくれればいい。これは嘘でも何でもないから」

「オレのこと、とっくの昔に嫌いになってるもんだと思ってたんだけど。構わないだろ、いなくなったところで」

「言ったでしょ。別に嫌いじゃないって」

「なんで」

「家族だから、かな」

「……わかんねえ」

「まあ、血縁じゃなかろうと誰かが死ぬのはもう嫌だろ。アイカはおれのこと嫌い?」

「嫌いというよりキショい」

「そっちの方ちょっと傷つくんだけどな」


 気持ち悪いと言われるよりも、嫌いと言われてしまったほうがちょっとだけマシだ。


「ガチで顔も見たくないくらいだったらまた脱走してるし。同じ部屋なんて拒否るし。相手したくないが正解」

「……それはどう反応したらいいの」

「別に嫌いじゃないけど、めんどくさいのは嫌いだ」


 ああなんだ、こいつ嫌いじゃないって言うのがはずかしくてこんなくどい言い方してるのか。まだかわいいところあるじゃないか。


「……ねえアイカ、もしこのまま落ち着いて、離れ離れになったとして……アイカのこと、家族だと思ってていい?」


 嫌われてても、相手したくないと思われててもよかった。ただ、おれは、彼のことを家族だと思っていたかった。だって、今更知らない人たちと一緒に生活したところでそんなふうに思えないもの。おれにとって家族はおとぎり苑のみんななのだ。


「……帰る場所が必要なことは否定しねえよ」


 それは、多分許されたのだと思いたかった。








 え?なに?恋バナ?そっか〜もうナツメもそんな歳か。なあに?好きな人でもできた?なんだ違うのか。お友達の話聞いてたら気になるよねぇ。

 私にもいたよ、好きな人。いた、というか今も大好き。本当に優しくて、素直な人だったかな。え?どんな顔だったって?そりゃ〜めちゃくちゃカッコ良かったな……。なんでスカウトされてこなかったんだろうってくらい。まあこんな片田舎じゃスカウトの人なんていないか。

 ……でも、あの人は本当に顔も中身もかっこいい人だったよ。向こうがなんで私を選んでくれたのか、いまでもたまに不思議に思うくらい。私は彼に何かしてあげられたのかな。

 なんで結婚しないのって?……いま遠くにいるからかな、もう会えないから。……うん、寂しいけどね、私にはナツメたちがいるから、━━━━もう大丈夫。

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