第10話 黄鱗きいろ

 ぐったりとしたモキョ先生の死体を何事もなかったかのように戻し、私は容疑者の皆様に近づきます。

「どうやらここにはもう何もなかったようですね……」

「それはまあ……私たちが最初に一番探した場所ですし」

 魚囃子さんの真っ当な意見を聞かなかったことにし、私は指を立てました。

「整理しましょう。被害者は五等分に小分けされて発見されました。しかし考えてみてください。普通、頭と両手、両足、胴体。全て数えると六つです」

 そう、単純にこの形にバラバラにしたのなら、六つに分かれていなければおかしいのです。

 しかし見つかったのは五カ所だけ。ならば一カ所だけ妙なことになっている場所があるはずです。

「ペンションの五カ所に置かれていた被害者の死体。それを私たちは慌ててせっせと一カ所に運んでしまいました」

 いや本当にそろいもそろって皆さん何をしているんです?

 現場保存という言葉を知らないのでしょうか。

 私たちは玄関近くに落ちていた胴体を動かさずに観察していたというのに。

 いえ、訂正します。モキョ先生が少しいじっていました。「胴体だけだと僕にも持てそう! んー……持てなかった!」などと言いながら胴体を引きずって遊んでいました。

 めんどくさかったので止めませんでしたが。

 かくして一カ所に集まったバラバラ死体は、繋がることはないまでも本来の位置に戻されたのでした。

「つまり、この中で誰か一人は死体を二つ拾ってきていることになります」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る