<秘密> 7

晩御飯を食べてから部屋に戻ると

俺はベッドに横になった。

ぼんやりとした頭で

放課後の西園愛の話を思い返した。


一色は手紙の差出人を

六年一組の生徒と考えたようだ。

そして一色は紙に書かれたメッセージを

子供達の前で読み上げ、

悪戯と判断しその紙を破り捨てた。

もし一色が犯人であれば

そんなことをするだろうか?

限りなく黒に近いと思われた一色だが、

その疑いは灰色に変わっていた。


灰色はグレー。

グレーは鼠色。

鼠色は灰色。

灰色はグレー。


そんなことを考えていると

満腹感と布団の温もりから瞼が重くなってきた。

徐々に意識が遠くなり、

俺は深い闇に吸い込まれていった。



真っ暗な場所で目が覚めた。

起き上がろうとして、

俺はすでに自分が立っていることに気付いた。

おかしい。

俺は部屋でベッドに横になっていたはずだった。

一体これはどういうことだ。


手を動かそうとしたら何かに当たった。

次に足を一歩前に踏み出そうとしたら

今度は膝が固い物にぶつかった。

ようやくそこで

俺は自分が何か狭い箱のようなモノに

閉じ込められていることがわかった。


暗闇に目が慣れてくると

すぐ目の前、

数十センチ上に

横に走った数本の切れ目があることに気付いた。

そこから微かに紅い光が差し込んでいた。

俺はつま先立ちになって目一杯背伸びをした。

辛うじて一番下の切れ目から

外を覗くことができた。


綺麗に並んだ机とその向こうに黒板が見えた。

ここは・・。

どうやら俺は教室の後ろにある

掃除用具入れの中に

閉じ込められているようだ。

脱出しようと正面の壁を押したものの、

不思議とピクリとも動かなかった。

何度か叩いたが、

薄い金属の壁は甲高い音を響かせるだけだった。


その時、教室のドアが開く音がした。

続いて足音が一つ。

そして

狭い視界の中に男が映った。

大きな男だ。

男の顔は見えなかった。

男は黒板の前で立ち止まった。


その時また誰かが教室へ入ってくる足音が

聞こえた。

すぐにその人物が視界に入ってきた。

それは奥川暁子だった。

何で奥川が?

その疑問が解けないうちに

俺のつま先が限界を迎えた。

一度踵を付けてから

俺は外の二人に聞こえないように

ゆっくりと深呼吸をした。

この時、

俺はなぜか二人に気付かれてはいけないと思った。


「やめて!」

不意に奥川の声と、

机がガタガタと揺れる音が聞こえた。

俺はふたたびつま先立ちになった。

細い隙間から俺の目に飛び込んできたのは

教卓の上に押し倒されている奥川の姿だった。

「やだっ!何するのよ!」

奥川の声が静かな教室に響き渡る。

男は無言で奥川を押さえつけていた。

「いやぁぁぁ」

という叫び声と共に

ビリビリという服の破れる音がした。

奥川の服が裂けて、

漆黒のブラジャーが露わになった。

男の手がそのブラジャーにかかった。

そして強引に引き下ろされ、

乳房が露わになった。


「やめろー!」

俺は腹の底から声を出した。

しかし俺の叫びは声にならなかった。

物音を立てようと正面の壁を叩いた。

高い金属音が狭い空間に木霊した。

外に目を向けると、

丁度、

男の手が奥川のスカートを

剥ぎ取ったところだった。

俺はもう一度思い切り正面の壁を殴った。

金属音が狭い空間に虚しく響いた。


「誰かー!助けてー!」

奥川の叫び声を無視して、

男は黙々と作業を続けていた。

男の手が奥川の最後の砦である下着を引き裂いた。

「やめてー!」

いつの間にか男は下半身を露出させていた。

固く屹立したモノが視線の先に確認できた。


「やめろおおおおおおお」

俺はもう一度腹の底から声を出そうとした。

しかし言葉にならなかった。


男が強引に奥川の中へ押入っていくのが見えた。

「いやああああ」

奥川の叫び声に涙声が混じった。


男の腰遣いが速くなるにつれて、

奥川の体から力が抜けていくのがわかった。

叫び声は嗚咽に変わっていた。

男の荒い息遣いがここまで届いた。


奥川の乳房を乱暴に掴んだまま、

男はさらに腰を早く動かした。

次の瞬間、

絶頂に達した男が雄たけびをあげた。


そして静寂が訪れた。


奥川のすすり泣く声が

静まり返った教室に反響していた。

奥川の体から男が離れた。

そして男がゆっくりとこちらに顔を向けた。

男の目が真っ直ぐに俺を見ていた。


その男は大吾だった。

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