<起承> 3

昨夜俺は何をしていただろう。


必死に思い出そうとしたが、

不思議なことに

昨夜のことが何も思い出せなかった。

さらにここ最近の記憶が曖昧だった。


しかし、自分に関することなら覚えている。


年齢。趣味。貯金額。仕事。

歳は今年で三十五歳。

当然ながら独身。

特筆すべき趣味はない。

強いて言えば酒を飲むことか。

貯金に関しては両親の遺産が少々。

仕事について。

これを一言で説明するのは難しい。

何でも屋。便利屋。掃除屋。

どれもしっくりとこない。

探偵。

強いて言えばそれが一番近いだろう。



「ぼーっとしてないで早く食べなさい」

母の声で俺は我に返った。


トーストに目玉焼き、サラダ。そして牛乳。

絵に描いたような朝食が目の前に並んでいた。

俺はトーストを一口かじった。 

バターの香りが鼻腔を抜けて

香ばしいパンの塩気が口の中に広がった。

それらはこれが夢でないことを

改めて俺にはっきりと告げていた。

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