487.ピケルアーラ

「チビ達よ!」

「バロメッツ召喚ジャ〜ン」

「来な、演劇隊!」


__ポンポンポン!


 私が結界の中に入ってすぐ、外側にいた聖獣ちゃん達が口々に叫ぶのが聞こえた。


 直後、校内に聖獣ちゃん達の魔力がほとばしる。


__シャーシャーシャー!

__シャーシャーシャー!

__シャーシャーシャー!


「イヤーッ、大量の蛇?!

一体、どこから現れましたの?!」

「全部黒いから、毒蛇じゃないか?!」

「逃げろ!

また魔獣に食われ……る前に、人丈の蛇の群が、倍にデカい魔獣達を丸飲みしてってる?!」

「何で蛇の顔が、腹膨れて満足そうだなって識別できんだよ?!」

「表情豊すぎですわ!」

「蛇が次々魔獣を飲みこんでってるが、敵か味方かわからない!」


 そうでしょうとも!

ラグちゃんのお子ちゃま達は、とっても表情豊かなの!

もちろん可愛い味方よ!


『チビ達に黒蛇?

他にも無事な卵があったと?』


 あらあら、リリに祝福を贈ってあったからか、思案するような呟きが微かに聞こえたわ。


 そうね、ベルジャンヌが魔力をこめていた卵は1つ。

それはリリも見た事があったけれど、ラグちゃんが箱庭で孵化させた卵までは知らなかったはず。


__ンヴェェェェ!

__ンヴェェェェ!

__ンヴェェェェ!


「丸茄子から羊が生えてる?!」

「羊の眉毛太すぎですわ!」

「それより顔、濃いな?!」

「山羊も混ざってないか?!」

「蹄が棘ですの?!」

「しかも魔獣を蹴りで倒してて強いが、ピョンピョン跳ねてて動きが状況とミスマッチ?!」


 ……もしかして、隊長はこっそり品種改良していない?

リリの頭のハイヨみたく、寄生能力まで備えていないわよね?

ちなみに顔が濃いのは、隊長の趣味よ。


『バロメッツ……まさか自走版?』


 リリも自走する方を知っていたのね。

心配しなくとも、ハイヨは半永久的にリリの頭にいるわ。

これからも可愛がってあげてね。


__チュチュチュ!

__チュチュチュ!

__チュチュチュ!


「小鳥の群よ!」

「待って、寸劇が始まったわ?!」

「えっと……デッカイ魔獣とチッサイ魔獣のどっちでしょう?」

「あ、デッカイ魔獣が背後から小鳥を襲いに……」

「ギャー!

スズメが巨大化した!」

「魔獣の舌を嘴で挟んでチョン切ったぞ!」

「あ、普通のスズメが集団で切った舌持ってった?!」

「……何の寸劇でしたの?!」

「スズメのくせに、暴走する魔獣を倒せるのは凄いが、何の寸劇かわからない!」


 ……きっと舌切り雀じゃないかしら?

アレンジが効きすぎて自信はないのだけれど。

でもR指定でないのは確かね。


『まさか大奥乱デ舞を大衆演劇で?

破廉恥な!』


 ふふふ、初心なリリ。

きっとお顔を真っ赤にしているはずよ。

でも今回は違うから安心なさい。

学園ですもの。

演劇隊にも分別はあるわ。


 なんて思いつつ、ツチノコ走行で先に結界内に入った黒蛇ちゃんの魔力を追う。


 すると行こうと思っていた場所の、ドアの前にいるのがわかる。


 そこへ向かう途中、騎士らしき遺体があったのだけれど、遺体は胸を剣のような鋭利な刃物で一突きされて絶命していたわ。

魔獣ではなく、明らかに人の手で殺されていた。


 鍛えてあるはずの騎士が一突き……騎士が油断するような人物が犯人?


 なんて考えながら目的地に到着すると、国王の亡骸がドアの前に放置されているわ。

ちょっぴり湿っぽいウェッティーなのは……あえて無視しましょう。


 亡骸のすぐ隣にとぐろを巻いていた黒蛇ちゃん。


 国王をひと飲みするくらいに大きかった体躯は、私と変わらないくらいの長さと大きさになっている。


「……ピケルアーラ?」


 もしかしたら前々世で魔力を注いだ卵かもしれない。


 敵意のない赤い瞳を正面から覗き見て、前々世で卵の殻越しに呼んでいた名前を口にしてみる。


 とはいえ、もしあの子であっても孵化前の事。

覚えていないかもしれないけれど。


 すると黒蛇ちゃんは、チロチロと出ていた舌を引っこめて、私のオデコにキスをする。


『ベルジャンヌの魔力、ベルジャンヌと同じ光』


 途端に頭に流れてくる少女の声。

どことなく念話が辿々しいのは、魔獣だからね。

蛇型魔獣は寿命が長くて、成長速度が人より遅いからなのもありそうだけれど。


 それよりこの黒蛇ちゃんは、やっぱり卵だったあの子みたい。


 それにこの子の母親であるピヴィエラの言う通りね。

かなりの魔力量に、ピヴィエラから聖獣としての素養を受け継いでいる。


 オデコへのキスは、念話を繋げやすくしたかったからでしょうけれど、普通の魔獣にはできない。

ラグちゃんが孵化させた子蛇ちゃん達には無かった能力よ。


 人への意思疎通能力と思考力。

この場にいたのも、私がここへ来ると予測しての事じゃないかしら。


 それに……。


 チラリと国王の亡骸を視て、ピヴィエラの言葉が正しかったと確信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る