360.予習と復習〜レジルスside
「ここで妹が消えた、と?」
「ああ」
教会の一室で年齢不詳の教皇と話した後、俺とミハイルは例の庭園に来た。
ミハイルとはあの一室て顔を合わせた為、状況は道すがら、改めて俺の口から説明してある。
ただ温室の結界も含めて詳しい事は、この庭園に入ってからだ。
行きは困惑、教皇と共に俺が待つ部屋へ入ってきた時には、どことなく教皇へと陶酔した視線を送っていた、ナックス神官。
彼が案内という名の、監視役としてそこの出入り口までついてきた為だ。
「転移か?」
「そうなる。
しかし……」
眉を顰めて問うミハイルの、本当に言いたい事はわかっている。
彼の妹を任された身としては、申し訳無さに言い淀む。
「ここの捜索を教会側が許したという事は、証拠がないのだろう」
しかしミハイルは特に俺を責めるでもなく、事実を淡々と告げる。
「それにナックス神官だが、あそこに立っている以上、俺達が教会側の目を盗び、忍びこむ事もできなそうだ。
だがレジルスの方でも、手は打ったようだな」
証拠を探すふりをしながら、問われた言葉に思わず口元が弛んだ。
「ミランダリンダ=ファルタン伯爵令嬢の人見知りの過ぎる性格と、彼女の受けた祝福の特性。
公女と共に3人であの神官と会った時から、いや、この教会に足を踏み入れた時から、誰一人、彼女の存在を感じ取れていなかった。
それを知ってか知らずか、ずっと俺に見せつけるなのように、公女とイッチャイッチャイッチャイッチャしていたのは気に食わなかったがな」
「そ、そうか……」
何だ?
ミハイルがそれとなく顔を引く付かせて、一歩後退した?
後ろに何かいるのかと、軽く見やるが、何もない。
まあ、いいか。
「彼女はずっと気配を殺していたが、まさかここでそれが役に立つとは思わなかった。
彼女には秘密裏に、公女を捜索してもらっている」
そう、ずっと彼女の姿が見えなかったのは、あの神官の元へ行く前に、この庭園で彼女に命じていたからだ。
彼女は祝福により、感覚が人一倍鋭くなっているらしい。
起こった事を正確に捉えていた。
「しかし長年、引きこもってきた令嬢だろう。
他の場所ならともかく、教会だ。
1人で探せないのでは?
それに転移したのなら、妹が教会以外にいる可能性だってある」
それとなく苦々しそうな顔つきになったのは、あの蠱毒の箱庭に転移した事件を思い出したからだろうか。
「公女が教会内にいる事は間違いない。
あの時、俺もファルタン嬢も結界の内側に、自分達の魔力を干渉させていた。
もちろん発動後に痕跡が消えたから、はっきりとした証拠があるわけではない。
だがあの温室を覆っていた魔力の外側……ほら、あれだ」
温室に辿り着いた俺は、ミハイルに顎でそれを差す。
「外側には未だに温室が見えないよう、魔法で幻覚を施し、無意識にでも触れないよう、あの辺一体を忌避するよう仕向けている。
あの魔法とくっつけるようにして、内側には違う何かの意図をもって施したような、結界が張られていた」
「ああ、そういう事か」
ミハイルは合点がいったかのように、そっと温室の結界に触れ、鑑定した。
「レジルスが言うように、内側にも何か別の結界があったのなら、今はそれが崩れて消えた事になる。
内外で全く異なる魔法を施し、そう時間が経っていないにも関わらず、こうも魔力残滓すら感じさせていない。
そして外側のこの魔法には、何の歪みもない」
「そうだ。
転移という仕掛けを施せたとしても、せいぜいがこの教会内部のどこかへの移動くらいしかできない。
それでも、これだけの魔法を仕掛けていた。
かなりの魔法の使い手だろうな」
まずは転移の方の疑問を晴らし、そうしてファルタン嬢自身に話のフォーカスを当てる。
「俺はロブール邸を出てから、ずっと俺では入っていけない、令嬢と公女との話を漏らさず聞いていたからな」
そう、俺はずっと公女と話したくて仕方なかったのに、彼女達の話題にはついていけなかった。
だが、巷で流行っている公女の小説。
品薄でなかなか手に入らないながらも、できる限り手に入れて、予習も復習もしてきたのが、功を奏した。
もちろんあのチャラチャラと流行りの小説を語る男の手は借りていない。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
明日と明後日は、所用により更新できないかもしれませんm(_ _)m
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