333.婚約者候補達〜国王side

『魔法師団長』

『待っ……』


 たわ言を耳にする前に話をまとめ、ライェビストに声をかければ、いつぞやのように側妃の姿が消える。


 今回はそのまま自分も転移はせなんだ……。


『では、私はこれで……』

『公爵!』


 ふむ、ひと言断りを入れただけ、良しとすべきよな。

だが用が終わったとばかりに転移したが、終わっておらぬぞ。

いや、この集まりの本来の主題は終わったのだが……。


 慌てて息子が声をかけたものの、無視された為、結局息子も転移で追いかけた。

蠱毒の箱庭で置いていかれた公女を想い、転移魔法を習得して以来、コツを掴んだらしい。

怪我もなく、当たり前のように使うのだから、息子も魔法の才があるのであろう。


 ただ、長年の恋心を父としては応援したいが……あのライェビスト故なあ……。


「ふ……」


 静まり返った自室で、あの後の息子の奮闘を思い出し、頬が弛み、幾らか温くなった茶をすする。


 あの後、息子はライェビストに食い下がり、恐らくそれをうっとおしく感じた故であろう。

公女が了承すれば良しと、言質をもぎ取った。


 しかし公女は否と即答。

婚約は実を結ばなんだ。


 それはそうであろう。


 ロブール家の血筋は、良い意味で自由。

悪く言えば、他者にとことん無関心。

反動と言わんばかりに、執着する人や物事には、とことんのめりこむし、なかなか熱が冷めぬ。


 余が即位して暫くの間、ライェビストに代を譲るまでの期間、支えてくれたロブール家先代当主も、そうであった。

婚約者であったかの王女が、シャローナ夫人を先代に直接頼まなければ、家督を放棄するどころか、むしろ先代当主は王女の後を間違いなく追ったはず。


 世間では、運命の恋人などと認知されておるが、当人達には不本意で、遺憾であろうな。


 しかしかの夫妻は長い時を共に過ごし、互いの関係に折り合いをつけていったように、余には見えた。

もちろん夫妻が王女へ抱く複雑な感情と関係は、生涯かの夫妻に影を落とし続けるであろうが。


 そんな筋金入りの自由人家系に輪をかけたかのように、かの公女は並々ならぬ意欲と意志でもって、自由を貫こうとしておる。

執着したのが自由という事であろうか?


 その志しは無責任だ、無才無能だ、挙げ句に稀代の悪女だと呼ばれても、全く意に介さぬ筋金入り。

外見はともかく、内面は父親に似すぎであろう。


 そして何を思ったか、公女の父親であり、歴代魔法師団長の中で最も魔法の才があり、ロブール家当主でもあるライェビスト=ロブールが、恐らく……多分……何となく、娘の自由を後押ししておる。


 故に、公女と婚約を結ぶ事は、限りなく難しかろう。


 そもそもあの公女は、元婚約者の息子も含めて、全く息子達に興味の欠片もない。

断言しても良い。


 王妃もそれを感じてか、格式高い家紋の令嬢達をあの後すぐ、得た権限も行使して、王子達全員の婚約者候補として据えた。

王子達の年齢がそれなりに近く、他の候補達も含め、どの王子と令嬢が決定するかは、もう少しかかりそうだが。


 中でもバルリーガ公爵家、フォルメイト侯爵家、ダツィア侯爵家は、その血筋と格式、全ての派閥が上手く別れている事もあり、その筆頭的存在よ。


 それに彼女達はロブール家の元養女が入学してすぐの頃、養女とはいえ格上の家格であっても、貴族令嬢として、上級生として、直接注意をした。

3人共に違う派閥であるにも関わらずだ。


 故に王妃も、3人には特に目をかけておる。


 余談だが、養女からそれを聞かされたジョシュアは、3人を上級生として戒めた。

影からそう報告を受け、余はに見切りをつけた。


 その後、特にダツィア令嬢には申し訳ない事態が起こる。


 第2王子の側近候補であった、ニルティ家元公子と縁故のルーニャック侯爵令息が、婚約者であったダツィア侯爵令嬢に、私怨で厳しく当たるようになったのだ。


 しかし学園内で起きた学生間のトラブル。

下級生を上級生3人で呼び出した事が、発端でもある。

故に国王という立場の余が直接間に入る事は出来なかった。


 とはいえ余が間に入っても、政略の色濃い婚約関係。

元より気持ちが伴わぬ関係故に、拗れてしまえば修復できるとは思えぬが。


 ただ、かの令嬢は幼馴染でもあった婚約者に何かしら、親愛の情があったらしい。

蠱毒の箱庭での罰を受けたかのような惨状と、生家からルーニャック家への婚約破棄に、暫し学園を休み、静養した。

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